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騎士団と聖女さま
「なかなか面白いご令嬢だったな」
セリカの家からの帰り道で、ユアク団長はラエンに話した。
「考えもしっかりしていて、話しがいがある。聖女であるから、なのかな」
「しかし、これまでの聖女たちは、国や民を癒すことに尽くされていた、と聞きます。あのように政に関わるような発言はしなかったでしょう」
「新しい聖女の時代が来たのかもしれない。どちらにしろ、彼女とはまた話をする必要がある」
「魔獣との共存について、計画を進めていくのは大変そうですね」
「そうだな…。いきなりそんなことを大っぴらに言い出したら、魔獣の味方をしていると反発をくらうだろう」
「しかし、今のままでは野獣を殺しつくすか、我々が殺られるか、といった状況…」
「ひとまず、道や土地の開拓をストップさせることはできるだろう。そのための根回しも始めている」
「被害を減らすための一時的対策、としてですね」
「われわれ第3騎士団の主要な業務のひとつは、魔獣対策だ。これまでの実績からいっても受け入れられるだろう」
「そこへ、聖女さまを説得して、怪我人などの治癒が実現できれば、その先も進めやすいですね」
「その聖女を動かすためにも、まずはこちら側が、信頼されるよう努めなければならない」
「そうですね。私たちはすでに一度、彼女の信頼を失っているとも言えますから…」
「聖女を召還した祭司長のローイは、使いものにならないセリカを、彼女の要望通りにすることで、厄介払いしたようものだからな」
「最初だけひと通り世話をして、あとは放っておいたわけですしね」
「魔獣被害が増え、聖女を求める声が高まって、しかたなく我々に、セリカを連れ戻すよう依頼してきた」
「なぜ、我々第3騎士団に? 」
「第3騎士団が、魔獣征伐を主な任務にしているから、魔獣対策の一環ということらしい」
「祭司長は、セリカが戻ることを、良しとは思っていないのですか? 」
「ほかにいないから仕方ない、という感じだろうな。またセリカが働かなければ責任を問われる恐れもある」
「そうなった場合、連れ戻した第3騎士団の責任にできる…」
「そして、もしセリカが役に立てば、功績は司祭長のものにするつもりだろう」
「抜け目ないですね」
「ところで、ダーシは何か言っていたか? 」
「いえ、今のところ、特に何もないそうです。セリカのまわりには、魔獣の気配は露ほども感じられないということで」
「そうか」
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