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セリカの秘密
眠っていた意識がうとうとと戻ってきた。が、目が開かない。
(もう朝なのか? )
と、ダーシは思い、無理やりにでも瞼を開こうとした。わずかに開いた目の隙間から窓を見ると、すでに白んできているのがわかる。
(まだ早いな)
もう少し寝ていようと瞼を閉じたが、廊下に気配を感じた。そっと階段を下りていくようだ。
(セリカのやつ、今朝はやけに早起きだな)
また畑にでも行くのだろうと思ったが、なにか引っかかるものを感じた。
空の様子からして、いくらなんでも早すぎないか?
起きあがろうとしたが、目がなかなか開けられないし、なぜか体も動かせない。
(なんだ? )
意識はだいぶハッキリしてきているのに、頭では体を動かそうと思っているのに、まったく動かない。なんとか目を薄く開くと、横たわっている自分の手足が見えた。
動け! 動け! と念じているのに、不思議なほど自分の体が動かない。まるでほかの人の手足のようだ。
(なんだこれ)
今までにない体験に、ぞっとした。
(動け! 動くはずだ! 頼む、動いてくれ! )
自分の体を動かせない恐怖を感じながら、ひたすら念じつづけた。
どれくらいそうしていただろう。念じつづけているうちに、不意に頭がぐるぐるっと回るような目まいがして、いきなり体の感覚が戻った。ぐん、と手足が跳ねて、体がベッドのうえに飛び起きた。
「はーっ…、良かった…。何だったんだ、あれ…」
手足を見つめて、握ったり開いたりしてみる。
「ちゃんと動くよな…」
ふうーっと息を吐いた。
「そうだ! セリカ…」
体を揺さぶったりしながら、大急ぎで上着を羽織り、外へ急いだ。
(どこだ? また畑のほうか? )
畑に行ってみたがいない。家のまわりをぐるりと回ってみたが、どこにもいない。家を中心に、その周りを歩きつつ、次第に林のなかへと入っていった。外はもうかなり明るくなってきているから、魔物は出てこないだろう。
ガサガサと草葉をかき分けて進んでいくが、いない。
外に出たと思ったのは、気のせいだったのか? もしかして家にいたりして…。
その時、不思議な気配を感じた。と、思ったら、気配は消え、わずかに何かが遠ざかる音がした。そして、その方向からセリカが現れた。
「あら、ダーシ。どうしたの? こんなところで」
「…いや、目が覚めたらセリカがいなかったから…、畑にもいなくて、心配になって…」
「探してくれたんだ。ごめん。散歩がてら山菜や木の実を採ってたの」
手に下げている籠には、言ったとおり山菜や木の実が入っている。
「いつもより早い時刻に、どうしたんだ? 」
「目が覚めちゃったから」
「危ないだろ。魔獣がまだいるかもしれない」
「もうこれだけ空が明るければ、ねぐらに帰ってるよ。大丈夫」
「そうか? 」
ダーシはもう一度、気配が消えていったほうを見た。
「心配させちゃってごめん。今度はメモでも書いて置いておくね」
「ああ、そうしてくれ」
ふたりとも黙ったまま、家に向かって歩き始めた。サクサクと草を踏む音だけが林に響いていた。
絶対におかしい。あの気配はセリカ以外の、人間のものではない気配だった。やはり魔獣なのか。セリカは魔獣と何があるんだ。ラエンに伝えるべきか、それともハッキリと証拠を掴んでからのほうがいいのか…。
ダーシは頭のなかで、ぐるぐると考えを巡らせた。
「ダーシ」
家の玄関前まで来たとき、沈黙を破ってセリカが声をかけた。
「ん? 」
「見たよね? 」
セリカはダーシを見据えていた。
「見てないにしても、気づいたでしょう? 」
「え…」
「昏睡魔法をかけておいたのに、やっぱり騎士団で鍛えられて、精神力が強いのかな。解いてしまったなんてね」
「セリカ…」
「しらばっくれようと思ったけど、変にラエンたちに報告されると、かえって困るから」
「お前…、やっぱり…」
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