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説得
それからはセリカは時々、夕方暗くなってからや、朝方まだ明けきらないころに、訪れてくる魔獣たちを癒すようになった。といっても、ダーシはその様子を見ることはできない。
「魔獣たちが怖がっちゃうから、ダーシは家から出ちゃだめ」
とセリカにきつく言われている。
(凶暴な魔獣が、人間ひとりを怖がるかよ)
とも、思ったが、手負いの場合は状況が違うかもしれない。
「なんだ、これ」
ある時、ダーシが見たこともない実が置いてあった。
「このあいだ手当てしてあげた魔獣が置いていったみたいなの。デザートに食べようよ」
「って、こんなの見たことないぞ。毒じゃないだろうな」
「大丈夫だよ~。この実は私も初めてだけど、前にも見たことない実をもらって食べた時は平気だったもん」
すでに食べていたのか…。
「それに毒とかあるかどうかは、ある程度わかるから」
セリカはそう言うと、その実に手をかざし、しばらくそうしていた。
「うん、大丈夫みたいだよ」
「わかるのか? 」
「うん、大体は。魔獣が持ってきたものだけじゃなく、ここで暮らし始めてしばらくした頃、食料がなくなっちゃって、林とかにあるものを食べられるかどうか、こうやって調べてたの。たまにお腹こわすこともあったけど。それで、害があるかどうかは大体わかるようになった。命がかかってたから、上達も早かったわ~」
「うっ、そうだったのか…。すまなかった…」
聖女であるセリカを放っておいたばかりに…。
「なに謝ってんの? ほら食べよ」
セリカが切り分けてくれた実は真ん中が紫色で皮のほうへいくにつれ黄色になっている。セリカはもぐもぐ食べているので、ダーシもおそるおそる口に入れてみると、案外おいしかった。
「うまいな」
「でしょ」
「そうだ。今日またユアク団長とラエンが来るから、これ食べさせてみようぜ」
「魔獣が持ってきたんだよ。なんて言うの」
「そのへんの林のなかに落っこちてたって言えばいい」
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