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「これはまた、大胆な色使いの実ですね」
ユアク団長とラエンは、差しだされた実を前にしばし躊躇していた。
「近くの林に時々、見たことない実が落ちてることがあるんだ。魔獣や動物が落としていったりするのかもな」
「私が命がけで習得した、毒を感知する魔術で確認したから、食べても大丈夫ですよ~」
セリカとダーシに勧められ、ふたりは思いきって実を口にしてみた。
「…うまい」
「そうですね。見かけよりも」
「ですよね? 」
ふっとユアク団長は笑った。
「では私からはこれを。木の実を使った焼き菓子です」
ユアク団長は菓子箱を取り出してセリカに渡し、にっこりと微笑んだ。
「わぁ…。ありがとうございます…」
お菓子になのか、ユアク団長になのかわからないが、セリカはうっとりとお礼を言った。
「例の話ですが、こちらでは着々と進めています。新しい道や土地の開拓はストップさせましたよ」
ユアク団長はテーブルの上に地図を広げた。
「この印がついているところが、予定されていた開拓地です。それぞれの開拓保留の承諾書がこちら」
承諾書の紙をつぎつぎ取り出した。
「すでに手をつけてしまっていたところも、中止させています。それらがこちらの印で承諾書がこちら」
「仕事が早いですね」
ダーシが感心した。
「すでにそれだけでも、魔獣被害の増加が抑えられ、我々、第3騎士団の実績として認められています。あとは魔獣生息地の調査と並行して、新しい道や土地の開拓を考えねばなりません。そこでセリカ殿のお力も必要になってきます」
「怪我人を治して、結界を張るのね」
「それだけではなく、開拓をストップさせたことで魔獣被害が減ったことも、セリカ殿の功績です。あなたの力が大きくなれば、新しい土地の開拓もしやすくなるでしょう」
「なるほどね…」
ユアク団長はふと表情をひきしめ、重い声で話し始めた。
「セリカ殿、こうしている間にも魔獣被害で命を落としている者もいるのです。できればお早い決断を」
その途端、セリカの頭のなかにイメージがなだれこんできた。
多くの人々が魔獣に襲われて、怪我をしたり苦しんでいる。荒らされた田畑や村々、悲鳴やうめき声、流れる血。
「やめてよ! 」
セリカは頭をおさえて叫んだ。
「セリカ!」
「セリカ! 団長、もう…」
「少々、強引ですが、あなたに実情を知っていただきたかったのです。お許しを」
ユアク団長は魔法を使えるため、セリカの頭に直接、魔獣被害の映像を流しこんだのだった。
「今日はもう帰ります。ラエン、行こう」
「はい…」
「セリカ殿、すみませんでした。ダーシ、あとは頼んだぞ」
「はい。ラエン、また連絡する」
「ああ」
ユアク団長とラエンは帰っていった。
「セリカ、大丈夫か? 」
「うん、もう平気。ありがと」
ソファにうずくまっているセリカに、ダーシが温かい紅茶を持ってきてくれた。
「そうだよね、傷ついてるのは魔獣だけじゃない。私が行けば助かる人も大勢いる」
「王宮に行かなくても、ここから遠隔で治癒魔法とかを送ればいいんじゃないか? そういうのできるって聞いてるぞ」
「できるはできるんだけど。王宮に行ったほうがいんだよね」
「なんで? 」
「王宮内にある神殿の祈祷所は、地下に流れる気の通り道の吹き出し口に作ってあるの。それだけじゃなく天に流れるパワーが集まってくる場所でもある。だから祈祷所で祈ることで、より治癒魔法の力は効力を発することができるってわけ」
「なるほど。ここからじゃ効率悪いのか」
「時間もかかるしね。あと単純に演出効果もあると思うよ」
「演出? 」
「みんなが認識してるなかで、神聖な祈祷所で、聖女が祈ることで人々が癒される。聖女の力の大きさが示されれば、その力に沿った方向で、仕事がやりやすくなる」
「ユアク団長が言ってのは、そういう意味か」
「魔獣を癒してるんだし、人だって同じことだよね…」
セリカがぼそっと呟いた。
「王宮に行くのが嫌か? 」
「うーん、まあね。ちょっと人嫌いになっちゃってるのかもね。あ、もし…」
「なんだ? 」
「ダーシが王宮で一緒にいてくれたら、ちょっと心強いかも」
「俺が?!」
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