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王宮へ
「セリカ殿、王宮へ戻る決断をされたこと、本当に感謝いたします」
「条件は忘れないでよ。毎日の昼寝と、帰りたなった時には帰らせてもらうこと。それから、王宮ではダーシを私に付けてもらうこと」
「はい。承知してます」
ニコニコしているユアク団長の笑顔がまばゆい。
家や畑のことなどを片づけ、ご近所さんたちにもしばらく留守にする挨拶をすませた。ラエンが馬車で迎えに来てくれて、私は身の回りのものと一緒に王宮へ戻ってきた。
「お待ちしておりました。聖女、いえ、セリカさま」
王宮に着き、そのまま神殿のほうへ向かうと、祭司長のローイはじめ神官たちが出迎えてくれた。ローイは国の祭儀事を一切を取り仕切っていて、セリカを召喚したのも彼だった。祭司の一族は魔力を持つものが多く、彼も稀に見る魔力の持ち主ということ。彼の髪も銀色で、瞳は黒だが時おり金色にきらめく。
「どーも…」
セリカはぺこりとお辞儀した。
この人、私がここに来た時から、いろいろ案内してくれたり、あれしろこれしろってうるさかった人だっけ。
「セリカさまが戻るのを皆心待ちにしていました。今日は一休みなさって、祈祷などは明日からお願いいたします」
ほんとに待ってたのかなぁ、って思うくらい、冷ややかな態度に感じる。
「はい、わかってます…」
「ユアク殿、この度のことは誠に感謝いたします。聖女さまを呼び戻すとは、さすが第3騎士団長でいらっしゃる」
「礼には及びません。お忙しい祭司長さまの代わりに、なすべきことをしたまでですよ」
「いえいえ。お互い、これからの聖女さまのお働きに期待するとしましょう」
なにやら張り詰めた空気…。
「ねえ、ダーシ。あのふたりって、もしかして仲悪い? 」
「仲いいとは言えないな。ところで国王さまたちはどうしたんだ? 聖女の出迎えはなしか」
「私がいいって言ったの。召喚された時に仰々しく扱われたし、今回もそういうの、堅苦しいし面倒だから」
「なるほど」
「お部屋にご案内いたします」
ひとりの侍女がやってきて、セリカは前にいた時と同じ部屋に案内された。その部屋が歴代の聖女の部屋、なのだそうだ。
「えっと、あなたはエシャーだったっけ」
「はい」
セリカ専属の侍女も、前と同じだった。セリカより少し年上っぽくて、背も高く、茶色い髪をきれいに結いあげ、立ち姿がスッとしていて所作も無駄がない。
「また、よろしくお願いします」
「もったいないお言葉です」
「えっと、ダーシの部屋は…? 」
「俺? 俺は騎士の寮に部屋がある」
セリカについてきて、部屋のドアの横に立っていたダーシが答えた。
「王宮にいるんじゃないの? 」
「寮から毎日、こっちに通うことになってる。第3騎士団からの派遣だから」
「あ、そうなんだ…」
「心配すんな。ちゃんと毎日来るから」
「うん…」
「よかったな。おいしい食事に、豪華な風呂、風呂掃除も洗濯もしてくれて、いつでもふかふかの布団だぞ」
冗談めかして言うダーシに、セリカもふふっと笑った。
「昼食のご用意ができています」
エシャーに案内されて違う部屋へ向かうと、広めのテーブルに一人分の食事が用意されていた。
「あの、ダーシのぶんは? 」
「ダーシさまは騎士ですので、騎士たちの食堂で召し上がられます」
「えっ、じゃあ私ひとりで、ここで食べるの? 」
「はい」
セリカがひとりで食事を始める傍らで、エシャーのほかに数人の使用人たちが、給仕などをしつつ控えていた。王宮では魔法を使える使用人も多く、カトラリーや皿などを手際よく運んでいる。
「あの…、誰か一緒に食べない? たとえば、エシャーは…? 」
エシャーは驚いた表情で答えた。
「滅相もありません。私たち使用人は、セリカさまとご一緒に食事をとることはできません」
「でも、前もそうだったけど、みんなが見てるなか、ひとりで食べるのは、なんかちょっと気まずい…」
「大丈夫です。慣れですよ」
と、エシャーはにっこり笑った。
仕方なくセリカは、なんとか食事を終えて部屋に戻った。
「セリカさま、あまり召し上がりませんでしたね。苦手なものとかありました? 」
エシャーが聞いてきた。
「いや、そんなことないよ。ただちょっと緊張して…」
「初日ですものね。無理ありません。もし何か食べたいものがあったらおっしゃってくださいね」
「ありがとう…」
いい人なんだよね。仕事熱心で。仕事…。
「明日からはちょっと忙しくなりますね。ごゆっくりお休みください」
「うん、おやすみ…」
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