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祈祷所
翌日からは、朝食のあとに祈祷所で祈りを捧げるのが日課になった。朝食を食べて身支度を整えているころに、いつもダーシがやってくる。
「よう。おはよ」
「おはよー」
ダーシと一緒に祈祷所へ向かうと、この時間はセリカが使うことになってるから、誰もいない。
扉を開けて中に入ると、そこは白い大理石で作られた円形の広間。天井は見上げるほど高く、天窓が空の光を受けてまばゆい光を落としている。
セリカはすーっと深い息をついた。
「やっぱり、ここ、気持ちいいんだよね。すごく素敵な気が流れてる」
セリカは丸い部屋の真ん中にあぐらをかいて座る。両ひざの上に手のひらをを上にした両手を置き、目を閉じた。ひとつふたつ大きく呼吸してから、静かな呼吸になる。天から落ちてくる光を受けて、セリカの姿がいっそう白く輝いたように見える。
この姿を見るたびにダーシは思い出す。セリカの家の裏の林で、セリカが魔獣を癒していたときのことを。
(セリカと、セリカの力…。必要とされてるのは、同じじゃないのか…? )
ダーシはいつかセリカが言った言葉を思い出していた。
祈祷を終えて外に出ると、祭司長のローイがいた。
「毎朝、ご苦労さまです。セリカ様のおかげで、民の回復も順調になり、国の空気も安定してきました」
「良い気が溜まってきてるからね」
最近、ローイがちょくちょく顔を出すようになってきた。ラエンから聞いたユアク団長の話もあって、ダーシはなんとなく警戒してしまう。
「午後からは町や村への慰問ですね。皆、セリカ様が来るのを心待ちにしていますよ」
「そう…」
「では、失礼」
言うことだけ言うと、ローイは去って行った。
「あいつ、最近よく来るな」
「そうだね。まあ司祭長って立場から、責任とかあるんじゃないの」
「そうかもな。ところで午後からの訪問さ、ラエンも護衛として来るから」
「あ、そうなの? 」
ぱっとセリカの顔が輝いた。
「なんだよ」
「いや、だって、久しぶりなんだもん。それにラエンのあの穏やかな微笑みに、癒されるのよね~」
「俺の微笑みじゃ不足だってのか」
「えー、もう見慣れちゃってるからさ」
「飽きたのか? そうか、俺にはもう飽きたんだな。じゃあラエンに交代してもらおっかな。そしたらラエンにもお前の秘密がバレちゃうかもな」
「ちょっと、何言ってんのよ。それに、そういうこと口に出さないで…」
セリカは声をひそめた。
「ああ、すまない…。ま、それより、今日はどこに行くんだっけ? 」
「王宮から少し遠い、山に近いところの小さな村だよ。そういう田舎に行くと特に、聖女様―ってうるさいんだよね…」
「そうか…。だったら、聖女様は忙しいから、弟子か何かってことにしたらどうだ? 聖女様の魔法を預かってきたとか何とか言って。そういうこと出来るのかは知らんけど」
「はぁ、なるほどね。やってみようか」
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