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村の小さな診療所のようなところへ行くと、怪我人がいっぱいだった。
「この村は山合いにあるのですが、昔からそれほど魔獣の被害はありませんでした。でも最近よく、田畑や家を荒らしたり襲ったりするようになって、下手すると昼間でも危ないんです」
「結界も緩んでいるみたいね。あとで張り直しておくよ」
セリカは首に下げていた石のペンダントを取り出して手に持ち、怪我人たちの治療を始めた。怪我やその人の状態によって効き方は違うが、良い方向へともっていくことはできる。
「そのペンダントは? 」
ダーシがこっそり聞いた。
「これに、聖女の力を預かってるってことにしてるの。代理っていうのが信憑性もつでしょ」
「なるほど」
治療がひと段落したところで、お茶をすることになった。
「セイ様、こちらへどうぞ」
案内された部屋には、お茶とお菓子、木の実などが用意されていた。
「どうぞ召し上がってください。騎士様たちも」
「これは何の木の実? 初めて見る」
「昔からこの村で摂れるゲノの実です。この実を水と一緒に、お腹いっぱい食べると、どんな病も治ってしまうんですよ」
「えーっ! そうなの? 」
「ウソだろう? 」
「本当ですよ。昔から村人たちは、そうやって病を治してきたんですから」
「そういえば、前にいたところでも、そんな実があるって聞いたことがある」
「そうなのか? 」
「うん。その実に含まれる栄養がものすごく多くて、いろんな症状に効くんだって」
「へえ~。便利な実だなあ」
「どおりで、この村の人たちは、回復力に対する反応がいいなって思った。その実の木はある? 見たい」
「いいですよ。ご案内します。でも、もう暗くなりますかねぇ…」
「まだ大丈夫だよ。見せてもらったらすぐ帰るから」
セリカたちは村人について、山のほうへ少し入っていった。
「ほら、これですよ」
太い幹の木があり上の方に広がった枝から、手の平くらいの大きさの楕円形の白い実がぶら下がっている。
「けっこう大きい」
「実を割ると、中に小さい塊が入ってるんですよ」
「へえ」
「いくつか、もらってもいい? 」
「いいですよ。でもあまり奥のほうへ行かれないでくださいね。暗くなってきてますので危ないです」
「うん。3つ4つくらいでいいかな」
「セリ…、セイ。暗くなり始めてきたから、もうそのくらいで戻ろう」
「そうだね」
と言いつつも、ついついセリカはひとり、奥へと入ってしまった。ゲノの実のほかにも、見覚えのある木の実があったりした。
(そういえば、魔獣が持ってきてくれた実と、同じみたいなものもある。人に薬になるものなら、魔獣にとっても…? それで魔獣がこのあたりに…)
と思った時、木々の向こうに強烈な気配を感じた。
魔獣だ。
セリカは立ちすくんだ。
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