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魔獣との遭遇
ずいぶんと気が立っているようで、下手に動くと襲われる。結界を張りながら、ゆっくりと下がっていこう。どうか皆、大きな声を出さないで…!
「セイ! もう戻るぞ! 」
ダーシが声を出しながら近づいてきた。
っ!
途端に魔獣が、セリカ目がけて襲ってきた。ズムッという衝撃が響き、セリカが跳ね飛ばされた。
「セリカ! 」
木々のあいだから飛ばされてきたセリカに、ダーシがかけよった。
「大丈夫か! 」
「…皆を」
セリカが苦しそうに言う。
「…! 魔獣か」
ダーシたちも魔獣の気配に気づいた。
「皆に、避難するように言ってください! 」
ラエンに言われて、村の人は大急ぎで報せにいった。
木々の隙間からこちらをうかがっている野獣に、ダーシは剣に手をかけて身構えた。ラエンも剣を構え、じりじりとふたりのほうへ近づいた。
「村には私が結界を張る。ダーシ、下手に手を出すなよ」
ユアク団長が言った。
(言われなくても)
ダーシは思った。
魔獣は熊みたいなやつだ。攻撃力も高いだろう。このまま立ち去ってくれればいいが、また襲ってきたら…。
と思った瞬間、魔獣が飛び出してきた。
とっさにユアク団長が、動けないセリカとダーシのあいだに防御壁を張って叫んだ。
「ダーシ! 」
ユアク団長の声とともに、ダーシが魔獣に切り込んだ。
「だめーっ!! 」
セリカが叫び、ダーシと魔獣の動きがとまった。
ぐぐっと起き上がったセリカは、ダーシに近づき背中に手をかけた。
「大丈夫だから…」
セリカは魔獣とダーシのあいだに入り、白い光を集めはじめた。
魔中は背中に傷を負っていた。セリカの白い光が魔獣を包んでいくうちに、魔獣の表情が和らぎ、次第に穏やかになっていった。
しばらくそうしていたあとに、穏やかになった野獣は背中を丸め、じりじりと後ずさりすると、さっと身を翻して山のなかへ消えていった。
その途端、セリカはガクッとその場にくずれた。
「セリカ! 」
「セリカ殿! 」
3人はセリカのところに集まった。
「怪我は? 」
「…大丈夫。結界が少し、間に合わなくて、襲ってきた衝撃で、弾き飛ばされただけだから…」
弾き飛ばされただけとは言っても、ぶつかった衝撃と、飛ばされ転がった痛みとで、あちこち打ち身や傷になっていた。
4人はとりあえず、その日は村に宿を借りることになった。
「セリカ殿は? 」
「眠りました」
3人の騎士たちが貸してもらった部屋に、ダーシが入ってきた。
4人は、村の中でも大きな家の部屋を借り、泊まらせてもらうことになった。別室のセリカはベッドに横たわり、自分に手当をしつつそのまま眠ってしまった。
「しかし、驚いたな」
ユアク団長とラエンが話している。
「はい。野獣の傷を癒して帰すとは」
「野獣というものは、倒して殺すべきものだと思っていたよ」
「私もです」
「セリカ殿は以前から、あのようなことをしていたのだろうか」
「それは、聞いてみないとなんとも…。ダーシは何か知ってるか? 」
「…いや」
ラエンの問いに、ダーシは言葉少なに答えた。
「セリカ殿には明日あらためて話を聞こう。しかし、このことはできるだけ知られたくないな」
「民家から離れていましたし、村人は誰も見ていないはずです」
「うむ。見られていたら大変なことになるかもしれない。聖女どころか、魔獣を助けた悪魔、などとな…」
ダーシとラエンは表情を曇らせた。
「念のため、村を出る時に忘却魔法をかけておこう」
「そのほうが良さそうですね」
「祭司長たちには特に、注意をするように」
「無論です」
「はい…」
ふたりはこくりと頷いた。
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