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厨房で
ある日のおやつタイム、セリカは厨房に顔を出した。
「よお、セイ。ルヴァはまだ休暇中だぞ」
「うん、知ってる…。ガイオクさん、このあいだ食べさせてくれたフルーツの蜜漬け、またもらってもいい? 」
「ああ、いいぞ。やっぱ甘いのが好きなんだな。ゼダ、出してやれ」
「今、出すよ。セイ、座ってて」
「ありがとう」
セリカがちょこんと、厨房の作業台の端に腰かけて待っていると、そこへダーシがやってきた。セリカはダーシの姿を見て、思わずドキッと緊張した。
「ガイオク。腹減った。なんかないか? 」
「ダーシ、お前は遅番で、さっき昼飯食ったばかりだろ」
「昼飯の時間が足りなかったんだよ」
「わかったよ。そこで、セイと一緒に待ってろ」
「えっ? 」
ダーシが振り向くと、隅に座っていたセリカと目が合った。
(セリカ、いたのか…)
ダーシはしぶしぶと、セリカの隣に座った。
「…久しぶり」
「…おう」
ダーシはぶっきらぼうに返事をした。
「セイ、お待たせ」
そこへゼダが、フルーツの蜜漬けを持ってきてくれた。
「ありがとう、ゼダ」
セリカがぱっと顔を輝かせた。
(こいつがゼダか)
ダーシは思った。
「相変わらず甘いものばっかり食べてるんだな」
蜜漬けをおいしそうに味わいながら食べるセリカに、ダーシはぼそりと言った。
「そりゃあね。特に今は勉強してて、甘いものがほしくなるんだよね」
セリカもぼそぼそと、小声で返事をした。
「そういえば、魔法の勉強してるんだって? 三食昼寝付きの優雅な聖女様生活を満喫するんじゃなかったのかよ」
「…いいじゃない、別に」
「まあ、いいけどよ。どうせ俺には関係ないし、好きにすればいいさ。いつのまにかこうやって、厨房でうまいものも食べてたりもするしな」
「なによ、その言い方」
「なんだよ」
「わかった。ダーシもこの蜜漬けが食べたいんでしょう。実は甘いもの大好きだもんね」
「俺はそんなこと言ってねえよ」
「じゃあ、何よ」
「お前ら、仲いいんだな。ほれ」
ガイオクが、余りもので作ったオムレツを、ダーシの前に差し出した。
「どこが! 」
セリカとダーシは声をあわせた。
「そういうところだよ」
ガイオクはそう言うと、仕事に戻った。
ダーシとセリカは黙ってもくもくと食べ物を口に運んだ。
「ごちそうさま」
セリカが席を立っって厨房を出ていこうとした。
「あ、セリ…、セイ」
ダーシはオムレツを口に入れたまま、セリカのあとを追った。
「なによ、食べてる途中でしょ」
ダーシはごくんと、口のなかのものを飲み込んでから話しはじめた。
「お前、その、大丈夫なのか…? 」
「何が」
「だから、その…、無理してないのか、ってことだよ」
「無理? 」
「なんかさ、あれだよ、その…、異世界にいたときは、いろいろ大変だったって言ってただろ。また勉強なんて始めて、どうなのかって話だよ」
「…」
セリカは黙ってしまった。
「余計なことだったら悪かったよ。ただちょっと気になっただけだから…」
「…うん。ありがと、ダーシ」
セリカは小さい声でつぶやいた。急におとなしい感じになったセリカに、ダーシは少し戸惑った。
「いや…。うん…。それで、どうなんだよ、実際…」
「セリカさま」
声がして振り向くと、祭司長のローイがいた。
「ティエザが探していましたよ。休憩時間が過ぎても戻っていらっしゃらないと」
「あ…、ごめんなさい…。ちょっとお腹がすいちゃって…。じゃあね、ダーシ」
セリカは素早くダーシのそばからはなれた。
「君は? 名前と所属を」
ローイが言うと、ダーシは姿勢を正し頭を下げた。
「はっ、第3騎士団所属のダーシです」
「ああ…、君か…」
ローイは意味ありげな様子でダーシを見た。
「ユアク殿のもとで、聖女を守ってくれているそうだね。これからも頼りにしてるよ」
そのままローイはすっとダーシの横を通り過ぎていった。
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