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封印された魔法
「魔法って、この国の歴史と深く関わりがあるんですね」
「そうです。魔法は国と共に発展し、進歩してきました。特に戦争では…」
セリカの質問を受けて、ティエザは朗々と話し始めた。
魔法を学び始めて数週間が過ぎ、小難しいところもあってつらいこともあるが、知れば知るほど面白いこともある。
この世界での魔法は人間の能力のひとつ。生まれながらに使える人と使えない人がいて、はじめは使えなくても、あとから使えるようになる人もいる。魔法が使えても使えなくても、区別される場合はあるが、特に差別されるようなことはないらしい。
王宮の厨房で働くシェフ達のように、特殊技能として職業に役立てている人もいるが、魔法を使えないからといって、職業が制限されるわけでもない。
セリカ自身、使えているものが、どんな属性のどんな魔法であったかも、だんだん分かってきた。
そしてそれ以上に興味深いのが、この国だけじゃない周りの国々を含めた歴史のこと。
「魔法は、魔獣との戦いだけでなく、人間同士の戦いにも使われてきたんですね」
近隣諸国を含めたこの世界の人々は、この国だけに限らず、魔法を使える人はいる。もちろん戦争にも、魔法が活用されることが当然の流れになる。
「その通りです。戦争に勝つために、有効な魔法が数多く開発されてきました」
(前の世界で言うところの、科学みたいなものかな…)
セリカは思った。
「ところで、ティエザ様。魔獣というのは、いつごろからいるのですか? 」
「言い伝えによると、はるか昔に、悪しき心を持った人間の思念が、闇から生み出したものと言われています」
「えっ、人間が魔獣を生み出したんですか? 」
「魔法は人間の能力のひとつですが、魔法を使える人間が全員、良い心を持っているとは限りません。闇の心を持つ強大な魔法を持った者の思念が、魔獣を生み出したと言われています」
「えー。じゃあ、魔法ってアブナイじゃないですか」
「大丈夫です。言い伝えでは、魔獣を生み出す魔法は、相当な魔力を持つ者にしかできませんし、すでに封印されています」
「封印?」
「はい。かつて強い魔力を持つ司祭が、その魔法を封印したそうです」
「封印…、ってどうやって? どこに? 」
「魔獣を生み出した者の思念とともに、1冊の本に封印されたと言われていて、その本のありかは、代々、司祭の一族を統べる者しか知らないそうです」
「一族を統べる者、ってことは…」
「まあ、半分、伝説ようなものですが、現在の司祭一族の長はローイ司祭長です」
(やっぱり)
セリカは思った。
「じゃあ、ローイ様は、強い力を持っているのですね」
「そうです。歴代の司祭長のなかでも、あのお方の力は抜きんでています」
「それなら、魔獣から国や民を守ることも、ローイ様ならできるんじゃないですか? 私みたいな聖女を召喚しなくても」
すると、ティエザは首を振った。
「それができればいいのですが、そうもいかないのです。魔獣たちは生み出されてから、それ自体として進化をしてきました。もはや生み出した側の力では、抑えることができないのです。そのため、国が危険な状態になると、セリカさまのような聖女を召喚してきました」
「つまり、この世界以外の力が必要になる時がある、ってことですか? 」
「はい、そういうことです」
「じゃあ、魔獣を生み出した魔法を封印しておく必要はないじゃないですか? 聖女を召喚しちゃえばいいんですよね」
「いえいえ、それはまた別の問題です。その魔法が解放されたら、悪しき思念も放たれてしまい、新しい魔獣が生み出されるかもしれません」
「ふーん。そんなアブナイ魔法、消しちゃえばいいのに。どこかにあるってだけで、危険じゃないですか」
「それは…、まあ確かにそうですね…。でも封印されつづけているということは、消せないものなのかもしれない…」
そのあたりはティエザもよく知らないようだ。
「なんだー。ティエザ様も、そのへんはよく知らないんですね」
セリカの言葉に、ティエザは少しムッとした顔をした。
「もちろんです。私だって知らない事くらいあります。そのあたりは司祭宮の管轄であって、私の専門外ですので」
あ、開き直った。
「…でしたら、セリカ様。司祭宮の文書館に行かれてみてはいかがですか? 」
「文書館? 」
「はい。司祭関係の本が所蔵されていて、年若い司祭や司祭見習いの者たちが勉強できるスペースもあります。魔法やその歴史に関する本などもそろっていますよ。ローイ様…、はお忙しいでしょうから、文書館の責任者のほうに、私から話を通しておきますので」
「あ、それは、ぜひ! 助かります。さすが、ティエザ様ですね」
「お安いご用です」
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