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セリカの様子
ティエザとの勉強がないある日、セリカは部屋で、シヴィルが来るのを待っていた。
たまにこうして、シヴィルやラエン、ユアク団長と会う日を設けている。
「セリカ、久しぶり。これお土産」
シヴィルは部屋に入ってくるなり、元気に声をかけた。
「ありがとう、シヴィル。開けていい? あ、チョコレート! うれしー! 」
「ユアク団長からだよ」
「わー、ほんと? ユアク団長には、ずいぶん会ってないなあ。元気? 」
「今、ユアク団長はラエンやダーシたちと一緒に、王宮を離れたところで任務についてるよ。その前に、セリカに渡してくれって、預かってたんだ」
「そうなんだ…」
ラエンやダーシも一緒に…。
あれから何回か厨房へ行ったりしたけど、ダーシにまた会うことはなかった。
(あたりまえだよね。王宮にいなかったんだから)
「セリカは調子どう? 勉強のほうも進んでる? 」
「あ、うん。いい調子だよ」
そう言うセリカの足元に、甘え声で鳴きながらロンがすり寄ってきた。
「わー、ロン! 大きくなったね」
シヴィルがロンを抱きかかえた。
「あっ、シヴィル…! 」
「ん? なに? 」
「あ、ううん。なんでもない…」
「おー、ロン、ずっしりしたねえ。私のこと覚えてる? 」
ロンはグルグルと喉を鳴らして、シヴィルに抱っこされたままでいる。
「ロン、太ったんじゃない? セリカ、ちゃんと運動させてあげてる? 」
「う、うん。遊んだりはしてるんだけど、ロンは沢山食べるから…」
「そうだよね。沢山食べるよねー、お前」
シヴィルはセリカの話を聞きながら、ロンに話しかけた。
「ね、それより。ユアク団長からもらったチョコ、食べようよ」
セリカはさっと立ち上がって、ティーセットが用意されているワゴンで、お茶を淹れ始めた。
「セリカ、ありがとう」
シヴィルも立ち上がると、ロンはシヴィルの手からぴょんと離れた。
「セリカ、勉強の調子はどう? 」
「あ、うん。順調だよ。魔法やこの国のこととか、いろいろ分かって楽しい。難しいこともあるけどね」
「そっか、良かったね」
「うん」
「セリカは勉強熱心だねー。感心するよ。私は勉強より、剣とか体動かすほうがいいね」
「私も本当は、のんびりしてたいんだけどねぇー…」
セリカは思わず、ため息をついた。
「え? そうなの。じゃあ、どうして勉強を? 」
「あ、いや、それはその、やっぱ聖女として知っておかなくちゃいけないこととかあるしね」
「ふーん、そっか。やっぱり偉いよねぇ。チョコもうひとつ食べていいよ」
「ありがとー。って、それ、私がもらったヤツなんだけど」
「まあまあ。私もチョコ好きだから」
「シヴィルも甘いの好きだよね」
「うん。よく姉さんのところに行って、おやつもらってるから。セリカも厨房に行くことがあるんだって? 」
「えっ、うん、そう。私も、おやつもらってる」
「あ、やっぱり! 姉さんが、聖女様のところにいるセイって子がよく来るって言ってたけど、あれ、セリカのことでしょ」
「…あ、バレちゃってた? 」
「セイなんて子いないしさー。絶対セリカだよなって思ってたんだよ」
「初めにルヴァさんが誤解しちゃって、そのあとも、つい言いそびれて、そのままにしてたんだ」
「まあ、いいんじゃない? セイでもセリカでも、あんたはあんたなんだし」
「…うん。でも、今度ちゃんとルヴァさんにも言うよ」
「そうだね」
その日の夜、ロンは珍しく、自分のクッションの上ですやすや眠っていた。
いつも夜になると騒ぎだすのに。昼間シヴィルがたくさん遊んでくれたからかな…。
セリカのほうは、ふかふかのひとりには勿体ないほど広いベッドから、もそもそと起きだし、暗い部屋に薄明かりを落としているバルコニーへ続く大きな窓のほうへ向かった。
窓辺に置いてある椅子に腰かけ、ポケットから石をひとつ取り出した。両手でその石を包み込むようにしながら口元へ持っていき何事かを呟くと、石は一瞬きらりと煌めいた。
セリカはその石を、またポケットにしまうと、ベッドに戻っていった。
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