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ロンに導かれて
「はぁ~、ユアク団長なら、話せるかなぁ…」
セリカは夜、ひとりの部屋で呟きながら考えていた。
クッションの上で寝ていたロンが起きてきて、大きく伸びをした。
「ロン、おはよう。って、もう夜だけどね」
ロンは体をあちこちペロペロと舐めると、エサを食べて水を飲んだ。
「そうだ。ロンの水、変えてこなくちゃ」
セリカがロンの水入れを持って廊下に出ると、ロンも、すっと開いたドアから外へ出た。
「あっ、ロン…! 」
セリカは水入れを持ったまま、ロンを追いかけた。
「ロン! ダメだよ。戻って」
しかし、ロンはすたすたと歩いていく。
セリカは水入れを廊下の端に置いて、ロンを本格的に追いかけた。
(変だな。ロンはいつも、ベランダの木づたいに、外の出入りをして、廊下にはあまり出たがらないのに…)
ロンはどんどん廊下を歩いて、司祭の宮へ続く渡り廊下へと向かっていった。
(まさか…? )
セリカはちょっと嫌な予感がした。
司祭の宮へはいったロンは、なおもどんどん先へと歩いていく
(誰かが、呼んでる…? )
セリカは思った。
ロンが、まるで操られているかのように、すたすたと歩いていくからだ。
薄暗い回廊を、先を歩くロンの姿だけが、セリカを導くようにぼんやりと見える。
(これは、もしかして…)
不意に目の前が、パッと明るくなり、思わず目をつぶった。
そして、ゆっくりと目を開くと、セリカは天井が高く丸い部屋にいた。王宮の祈祷所とよく似た造りだが、それよりはかなり小さめだった。
「祈祷所…? もしかして、ここが…? 」
「ずいぶんとお探しのようでしたね」
うしろから声がして振り返ると、いつのまにかそこに、ローイ司祭長がいた。足元にはロンがうろついている。
「ロン…」
「セリカ様、何を知りたいのですか? 」
「私は…、ただ…」
「魔獣についてですか? 」
「…」
セリカが黙ると、ローイ司祭長はつづけた。
「私のほうこそ、知りたい。あなたは何を知っているのですか? 」
「何を、って…。別に、何も…」
「そうですか。話してくださらないと、あなたの大切な人たちが、危険な目にあうかもしれませんよ」
「何、言ってるの…」
「たとえば、ダーシと言いましたか。あの第三騎士団の」
セリカは体を固くした。
「あなたが私に協力してくれるなら、あなたが探しているものを、差し上げましょう」
「…」
「もし、協力していただけないなら…」
「…わ、わかったわよ。協力する。だから、ダーシたちには…」
ローイ司祭長は、口元だけでふっと笑った。
「賢明なご判断です」
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