ロンに導かれて

1/1
前へ
/49ページ
次へ

ロンに導かれて

「はぁ~、ユアク団長なら、話せるかなぁ…」    セリカは夜、ひとりの部屋で呟きながら考えていた。  クッションの上で寝ていたロンが起きてきて、大きく伸びをした。 「ロン、おはよう。って、もう夜だけどね」  ロンは体をあちこちペロペロと舐めると、エサを食べて水を飲んだ。 「そうだ。ロンの水、変えてこなくちゃ」  セリカがロンの水入れを持って廊下に出ると、ロンも、すっと開いたドアから外へ出た。 「あっ、ロン…! 」  セリカは水入れを持ったまま、ロンを追いかけた。 「ロン! ダメだよ。戻って」  しかし、ロンはすたすたと歩いていく。  セリカは水入れを廊下の端に置いて、ロンを本格的に追いかけた。 (変だな。ロンはいつも、ベランダの木づたいに、外の出入りをして、廊下にはあまり出たがらないのに…)  ロンはどんどん廊下を歩いて、司祭の宮へ続く渡り廊下へと向かっていった。 (まさか…? )  セリカはちょっと嫌な予感がした。  司祭の宮へはいったロンは、なおもどんどん先へと歩いていく (誰かが、呼んでる…? )  セリカは思った。  ロンが、まるで操られているかのように、すたすたと歩いていくからだ。  薄暗い回廊を、先を歩くロンの姿だけが、セリカを導くようにぼんやりと見える。 (これは、もしかして…)  不意に目の前が、パッと明るくなり、思わず目をつぶった。  そして、ゆっくりと目を開くと、セリカは天井が高く丸い部屋にいた。王宮の祈祷所とよく似た造りだが、それよりはかなり小さめだった。 「祈祷所…? もしかして、ここが…? 」 「ずいぶんとお探しのようでしたね」  うしろから声がして振り返ると、いつのまにかそこに、ローイ司祭長がいた。足元にはロンがうろついている。 「ロン…」 「セリカ様、何を知りたいのですか? 」 「私は…、ただ…」 「魔獣についてですか? 」 「…」  セリカが黙ると、ローイ司祭長はつづけた。 「私のほうこそ、知りたい。あなたは何を知っているのですか? 」 「何を、って…。別に、何も…」 「そうですか。話してくださらないと、あなたの大切な人たちが、危険な目にあうかもしれませんよ」 「何、言ってるの…」 「たとえば、ダーシと言いましたか。あの第三騎士団の」    セリカは体を固くした。 「あなたが私に協力してくれるなら、あなたが探しているものを、差し上げましょう」 「…」 「もし、協力していただけないなら…」 「…わ、わかったわよ。協力する。だから、ダーシたちには…」  ローイ司祭長は、口元だけでふっと笑った。 「賢明なご判断です」
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加