40人が本棚に入れています
本棚に追加
怪しげな気配
翌朝早くに、ダーシは外に気配を感じて目を覚ました。
(何か、いる…? )
上着をはおり剣を携え、窓の外の様子をうかがった。窓からの角度と木の枝に邪魔されてよく見えないが、生き物の気配がする。
不意に、ファサッと大きな影が飛び立った。
(あれは…魔鳥…? )
はっきりとは見えなかったが、大きさなどの感じから、魔鳥に違いないと感じた。
(もう明るいし、森へ帰ったのだろう。心配はないか…)
と思ったら、魔鳥の気配がしたほうから、セリカが籠を抱えてやってくるのが見えた。
(あいつ…、なぜ、あっちから? )
「ダーシ、なにかいたか? 」
気配を感じたのか、ラエンも起きていた。
「ああ…、実は今…」
「あら、おはよう。ふたりとも起きてたの? 」
玄関ドアからセリカが入ってきた。持っている籠には、果物の実が入っている。
「ほら、いい果物が採れたわよ。朝ごはんに食べようよ」
「あ、ああ…」
「そうだな…」
「何? ふたりとも、どうかした? 」
ふたりとも様子がおかしい。ダーシがたずねた。
「どこに行ってた? 」
「どこ、って、裏の畑と林のほうだけど? 果物がなる木もあるし」
「こんな朝早くに? 」
「朝早くって言っても、外に出たのは6時くらいよ。暖かくなってくると、天気がいい日は昼間、畑仕事をするのが暑くてつらい日もあるから、なるべく朝にも畑を見るようにしてるの」
ラエンとダーシは顔を見合わせた。
「そういうものなのか」
「そうよ。真夏なんて日が高くなってからは、外なんて出てられないよ。朝早くに畑仕事をして、暑い昼間にそのぶん寝るのよ。お隣さんのおじいちゃんなんて、朝の3時半には畑にいるわよ」
「それって…、朝? 」
「まだ夜なんじゃないか? 」
ぷっと3人は弾かれたように笑った。
布団を片づけソファを直すと、みんなで朝食の準備をした。昨夜のナクリとポトフの残り、そして新鮮な果物。
「昨夜も思ったけど、このナクリ美味しいな」
「ああ、食べたらなんとなく、元気になった気がするし。回復魔法でもかけてくれたのか? 」
セリカは笑いながら答えた。
「魔法なんてかけてないよ。ナクリにはねショーガっていうスパイスを入れて炊いたのよ。風味も良くなるし、体を温める効果があって、元気になるのよ」
「そうか…、スパイス…」
「そのスパイス、どんなのだ? 見せてくれ」
ダーシが食いついた。
「あとでね。分けてあげてもいいよ」
「騎士団のみんなにも、食べさせたい」
「どうぞどうぞ。それに、誰かのために作った料理って、魔法がかかってるようなものだから。小さいころにお母さんが作ってくれた料理って、美味しかったでしょう」
「あ、ああ…」
「そうだったかも」
「みんなが、誰かのためにっていう想いの魔法を持ってるんだよね…」
セリカはぽつりと、囁くようにつぶやいた。
最初のコメントを投稿しよう!