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隣国にて
セリカがあの時、どこへ行っていたのか、そして何をしていたのか…、それがセリカが王宮に戻ってきたことと関係がある。
3人はそう考え、そのあとは、結界を潜り抜けながら、隣国を渡り歩いていた。
「いらっしゃい。お客さんたち、旅の騎士さまだね」
とある国の食堂に入ると、気のいいおかみさんが話しかけてきた。
「ああ、旅をして腕を磨いてるところだ。ところで、すまないがこの店は、少々値段が高くないか? 」
ユアク団長が言うと、おかみさんはすまなそうにため息をついた。
「そうなんですよ。申し訳ないですねえ。でもこっちも、上げざるを得ない状況なんです。なにせ物価が高くなっちまって。この値段でもカツカツなんです」
「なぜ? 以前はもう少し、安かったはずだろう? 」
「そうなんですが…、ここ数年でお隣の国との商売の税金が上がっちまって、材料が手に入りにくくなってるんです。食べ物だけじゃない。生活に必要なものも品薄で、みんな工夫しながらなんとか暮らしてます」
「そんなに大変なのか? 」
「ええ、そりゃもう。この国は土地の土壌もあまり良くないもんで、お隣の国に出稼ぎに行ったりしてたんですが、最近ではそれも打ち切られて、おまけに結界まで張られちゃってねえ。昔は、同じひとつの国だったっていうのに、ひどい扱いですよ」
「そうか、この国も大変なんだな」
「ええ、そうですよ。このあたりの国はみんな似たようなものだって聞いてます。豊かなのは、お隣の国だけですよ」
「わかった。メニューはもう少し考えさせてくれ」
「あいすみませんねえ」
おかみさんは、ぺこぺこお辞儀をしながら店の奥へ引っ込んだ。
「思った以上に、隣国の生活は良くないようですね」
「ああ。しかもその原因が、わが国にある」
隣国を渡り歩いてわかったのが、なにより食事や宿だけでなく、食べ物や生活品などの物価が高いことだった。その原因が、ダーシたちの国との貿易税が急激に上がったこと。そのため、今まで手に入っていたものが、庶民に入りづらくなってしまった。
また、隣国の土地は、ダーシたちの国に比べて土壌が悪く、作物も育ちにくい。その分、出稼ぎとしてダーシたちの国へ人を派遣していたものが、急に取りやめになったため、仕事を失う人が急増してしまった。
国は、痩せた土地をなんとか改良しようとしたり、ほかの特産物を開発していたりするが、そのための費用もままならない。
隣国はその状況を打開するために、ダーシたちの国に働きかけを行っていたが、それを攻撃とみなされ、ますます国境が固く閉ざされることになった。
しかもその状況は、この国だけでなく、ほかの隣国たちについてもほぼ同じだった。
「隣国からの脅威というのは、ウソだったのですね」
「国王に情報は届いていないのでしょうか」
「国王に届いていないとしても、どこかには伝わっているはずだ。誰かが握りつぶしているか、あるいは…」
「あるいは? 」
「国王も手が出せないのかもしれない」
「どういうことですか? 」
「わが国の王族は、はるか昔から、司祭の一族と深く関わりあってきた。互いに支え合い、頼り合い、なくてはならない存在になっていった」
「その司祭の力からの脱却を、先の国王が試みたのですよね」
「そうだ。だが、どうしても司祭の一族に、頭が上がらないところがある」
「それは何ですか? 」
「封印された魔法だ」
ダーシとラエンは顔を見合わせた。
「封印された魔法とは、あの、魔獣を生み出すことができる、という? 」
「あれは、ただの昔話じゃなんですか? 」
「それが、そうでもないらしい。司祭の一族に伝わるという魔法の封印が解かれれば、司祭が魔獣を生みだし、司祭が力をもった国になってしまう」
「…でも、これまでの歴史で、そんなことはなかったですよね。ただの脅しかもしれない」
「そうなんだが…、ここ数年の隣国との関係を見ると、国王による政が正しく行われていない気がする…」
「…」
食堂で注文をして食事をすませると、3人は食堂を出た。
「これからどうします? 」
「諸隣国の状況はある程度把握できた。あとはセリカ殿の痕跡が残る、この国の王宮についてどう調べるか…」
「そうですね…」
「宿屋に行って、対策を考えよう」
3人が大通りから路地に曲がったところで、さっと数名の覆面騎士たちが行く手を阻み、退路もふさがれた。
「…! 」
3人は剣に手をかけ、身構えた。
緊張がつづく中、前にいた騎士のひとりが、ゆっくりと一歩近づいてきた。
「驚かせて申し訳ありません。危害は加えないと約束しますので、どうか、私たちと一緒に来ていただけないでしょうか…」
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