隣国の女王

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隣国の女王

 数十分後、3人は立派な設えの部屋で、座り心地のよいソファに腰かけ、香りの良い紅茶をいただいていた。  部屋の外に気配を感じた、と同時にドアが開かれ、仕立ての良い服を着た気品ある人がひとり入ってきて、3人に対して深々と頭を下げた。 「拉致のような真似をして、大変申し訳ない」 「いえ、こちらこそ、手間が省けて何よりでした」  ユアク団長が答えたその人は、男のような身なりをしていたが、紛れもなく女性だった。 「私は、この国の女王、レイダです。そなた、隣国の騎士団長ユアク殿ですね? 」 「はい。女王陛下。こちらは私の部下、ラエンとダーシです」 「話は聞いています」  話…? 誰から…。 「あなたたちが尋ねたいのは、セリカ殿のことでしょう」  3人はさっと緊張した。 「…セリカ殿をご存知で? 」 「ユアク殿のお察しのとおりです」 「ではやはり、セリカ殿はこちらに来たのですね」 「…我が国をはじめとした、隣国一帯の状況は、すでにお分かりでしょう」  ユアク団長は頷いた。 「土地も資源も豊かな貴国との交易が絶たれるのは、相当な痛手です。それを利用して、貴国は私たちに、属国になることを要求してきました」 「なんですって! 」 「そんなバカな… 」  女王はため息をついた。 「残念ながら、事実です。しかも、魔獣たちをけしかける、という脅しもかけてきています」 「魔獣を…? 」 「そんな…、我々は… 」 「魔獣を創り出したという封印された魔法については、ご存知でしょう? 」  女王はつづけた。   「封印された魔法を解放し、魔獣たちを操れるようにもなる。その鍵になるのが、聖女の力です」 「聖女…、つまりセリカの…」 「そうです。私たちは聖女の動向を探るため、貴国へ人を忍び込ませていました。聖女自身は異世界から来たこともあり、この国の情勢にはあまり関心がないようなので、こちらへ招き、話をさせていただきました」  それが、セリカがいなくなったあの時だったのだ。 「こちらにも、魔力を持つ者はおりますので、こっそりと運ばせてもらいました。魔力の痕跡は消したつもりでしたが、突きとめるとはさすがですね」 「セリカ殿には、何の話をしたのですか? 」 「…我が国をはじめとした隣国一帯は、情報を共有していますが、貴国の王族や貴族、国民すべてが同じ意志であるわけではないことがわかりました。我々隣国への圧力は、王族や官吏のほんの一部だけの思惑のようです」 「そのようですね。実際、第3騎士団長である私も、まったく預かり知らぬことです」 「おそらく、知られては困るのでしょう」 「それは…、まさか…」  ユアク団長の考えを見透かしたように、女王は頷いた。 「隣国一帯を支配すると同時に、貴国の支配体制をもひっくり返そうという思惑があるのでしょう。しかも隣国の中にも、不穏な動きがある国もあります」 「不穏な動きとは? 」 「近隣諸国の商人や労働者たちが、貴国から締め出されているなか、頻繁に貴国に出入りしている者がいる国もあるのです。王宮近くに忍ばせている密偵によると、有力な商人たちも一緒だとか」 「商人たちが? 」 「なにか特別な取引でもしているのか…」  ラエンとダーシも、思わず声が出た。 「魔獣を操る魔力を手にし、経済力も手中にしようとする者…、そしてその者は、封印された魔力のありかを知っている」 「やはり、司祭長ローイか」  ユアク団長が呟いた。 「私たちは、セリカ殿に、魔法が封印されたという本を探すように頼みました」 「セリカにそんな、危険なことを…! 」 「ダーシ、控えろ。それで、セリカ殿はなんと返事をしたのですか? 」 「彼女は、それで平和に暮らせるならいいと、承諾してくれました」 「それで急に、王宮に帰ることにしたのか…」 「じゃあ今ごろ、セリカは…」  ダーシとラエンは顔を見合わせた。  ユアク団長が急に立ち上がった。 「女王陛下、失礼いたします。私どもに急ぎの知らせが届いたようです。窓を開けてもよろしいでしょうか? 」    女王は少し考えてから頷き、部屋の窓のひとつに向かい、あの窓を、というように手を差しだした。魔力持ちの護衛たちがユアク団長を警戒した。  団長はゆっくりと窓辺へ歩いて行った。 「開けますよ」  言うと同時に窓をあけると、窓のまわりで鳥が一羽、パタパタと羽ばたきまわっていた。    鳥は窓の中に入り、ユアク団長の腕にとまった。団長は、鳥の脚につけられている小さな袋に入っている伝え石を取りだし、魔力で読み解いていた。 「シヴィルからだ。姉のルヴァを通して送ってきたらしい。…セリカ殿が、司祭たちに見張られて、シヴィルが近づくこともできないらしい」 「セリカが?! 」
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