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セリカとローイ
「ローイ司祭長と関りがない、って言ってたのは、ウソだったんだね」
「まあ、そういうことになりますね」
シュキは涼しい顔で答えた。
「でも、私が魔力を持ってないのは本当ですし、封印された魔法についての詳しいことだって知らされていませんよ」
「でもさ、司祭長のローイは、シュキの顔も知らないって言ってたじゃん。実は、ローイに言われて、私に近づいてきたのに」
「実際、ローイ様は私のことなど知りませんでしたよ。たまたま、あなたに近づくために、まだ見習いの司祭である私が好都合ということで、声をかけていただきました」
セリカの部屋は、司祭長ローイの補助もするということで、司祭宮に移された。毎日の祈祷所での日課も、司祭宮の祈祷所で行うことになり、厨房にはひとりで勝手に行けないし、シヴィルと会うこともできなくなった。
そして実際セリカは、ローイとの時間が合う時に、彼の補助もしている。ロンに導かれて行った、あの秘密の祈祷所で。
「この祈祷所は、なんというか…強いエネルギーがいっぱいなんですね」
「そうでしょう。この祈祷所の場所が、天からも地からも魔力が集まる場所になっています。王宮の祈祷所の魔力も、ここから送られているのです」
セリカの言葉に、ローイは当然というように答えた。
「ロンは…、あなたが手を回して、私のところに越させたんですね」
ロンが大きくなるにつれ、普通の猫とちょっと違うと思ってきた。
あの田舎の家で、魔獣たちと会っている時のような、魔獣たちの魔力とセリカのエネルギーとが通じるような感覚を感じていた。
「はい。あなたが子猫を飼いたがっていると聞きまして、これはちょうどいいと思いましてね」
「あなたは…、魔獣を創り出しているんですか…? 」
「そう言われると聞こえが悪いですね…。この祈祷所には、司祭長の一族に受け継がれてきた魔力が、流れているのです」
「その魔力って…」
「かつて、魔獣を生み出した、失われた魔法のことです」
セリカは混乱した。
「…どういうこと? 」
「…あなたには、手伝ってもらう必要があるので、お話ししましょう。その昔、強大な魔法で魔獣を生み出したのは、司祭の一族の者でした」
「ただの伝説じゃなくて、本当のことだったんだ…」
「魔獣が解き放たれ、国は混乱し、司祭たちは魔力を結集して、その魔法を封印しました。でも、思いがけない特産物も生み出されました」
「特産物? 」
「豊かな土地の資源です。魔獣の誕生により、この国に、つぎつぎと豊かな資源が生み出されていることが発見されました。しかしその頃、まだこの国は、近隣諸国を含めた大きなひとつの国の一部であり、司祭を中心に治められていた街、聖都でした。そして、魔獣たちが生み出されたことによって街を封鎖し、ひとつの国として独立を宣言しました。」
「どうして…? 」
「解き放たれた魔獣たちの広がりを抑えるため、それから魔獣たちを制御しつつ、豊かな資源を生み出す魔法を編み出すためです。そしてそのためには、異世界からの魔力が必要なことが分かってきました。」
「それで、今まで聖女たちを召喚してきたんだ」
「ええ。この国の今の王族たちは、かつての司祭の中から選ばれた者ですが、時が経つにつれ、封印された魔法の詳細は伝えられなくなり、ただの伝説と言われるようになりました。召喚された聖女たちは、魔獣対策や隣国との政策などに追われ、なかなか封印された魔法についてお話しすることができませんでした」
「じゃあ、あなたは私に、魔獣たちを操りながら、資源を生み出す魔法を編み出す協力をしろ、って言うの? 」
「そうです。封印された魔法は強大すぎて、完全に封印するのは無理なので、少しだけ洩れさせることで、大部分の力を抑えておくことができます。その洩れさせる先がこの祈祷所で、ここに溜まった魔力が魔獣を生み出すこともあり、その魔獣たちも密かに保護しているのです。その中の一匹があなたの猫です」
「じゃあ、ロンはここで生まれたの…」
「私が、その猫に向けて懐かしい魔力を流したので、それに引き寄せられて、生まれたこの場所へと、あなたを導いたのです」
「どうしてロンを私に? 」
「異世界からの聖女の力は、魔獣に効くかどうか、確認したかったのです。それに、こうしてこの猫にとってなじみのある魔力で、ある程度操ることもできますしね」
セリカはその言葉に、今まで魔獣たちを癒してきたことを思い出し、どきりとした。
「…魔獣たちは、生み出された時から、自分たちの命を生きてると思わない? 操ったり制御するなんて…」
「魔獣は危険な存在です。それを生み出した私の祖先の、後始末をする責任が、私にはあります」
「…でも、魔獣が生まれたことで、資源も生み出されているんでしょう。魔獣を抑えて資源だけもらおうなんて、そんな都合のいい…」
「いけませんか? あなただって本当は、仕事もせずにのんびり気ままに暮らしたいのでしょう? そんな都合のいい魔法が編み出されれば、貧しい近隣諸国も、この国の恩恵にあずかれるのですよ」
「あ、まあ…、そりゃそうか…」
セリカの返事に、ローイはちょっと拍子抜けした。
「ふう、まったく、あなたは…。まあ、いいでしょう。これで私に協力してくれる気になりましたか」
「うーん、まあね…。でも、みんなにとっていいことなら、コソコソしたり、私の友人たちをダシにしなくてもいいんじゃない? 」
「…元はと言えば、司祭の祖先が引き起こしたこと…。それが知られれば、どんなことになるかわかりません…」
「ふーん、そうなの…。ところで、その本はどこに? 」
「本? 」
「その魔法が封印されてる本だよ。私が協力すれば、ありかを教えてくれるって言ったじゃん」
「ああ…、そうでしたね。まあ、それはいずれ…。まずは、その都合のいい魔法を編み出すことが先ですよ」
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