38人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
セリカの家で
「まったく、どうなってんのよ。シヴィル、騎士団は何やってんの? 」
厨房で、シヴィルを前にルヴァが叫んだ。
「セリカの部屋は司祭宮に移っちゃって、厨房には全然来ないし、それどころか、こっちからも会いに行けないなんてさ。ユアク団長はどうしたのよ」
「それが…、ダーシやラエンと一緒に、調査に行ったっきりで…、連絡したのに返事が来ないんだよね…」
「魔獣被害は減ったけど、隣国との関係もどんどん怪しくなってきちゃってるし、街や村のみんなも、不安がってるよ」
「そうなんだよね…」
「あっ、ちょっと待って」
ルヴァが窓辺に駆け寄った。
「来た来た、やっと来たよ」
一羽の鳥が、窓の外で飛び回っていた。
「ユアク団長、何だって? 」
「まあ、ちょっと待って…」
ルヴァは鳥の脚につけられている袋から、伝え石を取り出し、魔力で読み解いた。
「シヴィル、ユアク団長たちが、セリカの家で待ってるって。それから…、ゼダも一緒に、って…」
シヴィルとルヴァは、厨房で働いているゼダに目をやると、ゼダも気づいてこちらを向いた。
「ゼダ…。なんで、あんたが? 」
「ルヴァさん、ちょっと貸してもらえますか? 」
ゼダはルヴァが持っている伝え石を受け取り、それを読み取った。
「私へのメッセージもありました。シヴィルさん、すぐにセリカの家へ行きましょう」
事情はよく分からないけれど、今はセリカの家に行くことが先。シヴィルとゼダは馬を走らせ、せり科の家に急いだ。
着く前に日が暮れかかってきたものの、今は魔獣たちも落ち着いていて襲われる心配はなかったが、それでも安全のために馬を大急ぎで走らせた。ようやくセリカの家に着いたころには、馬たちは口から泡を吹くほどだった。
ほんのりと明かりが灯った家のドアを、ふたりが来た気配を察したラエンが開けてくれた。
「ラエン! 」
「シヴィル、それにゼダも、早く中へ」
ふたりが家に入った時には、ちょうど日がとっぷりと暮れていた。
部屋のソファには、ユアク団長とダーシが座っていた。
「シヴィル、ご苦労。それからゼダ、いや、ゼルヴィダ殿下、お越しいただきありがとうございます」
「殿下?! 」
シヴィルが声をあげた。
「団長、一体どういうことですか?! 」
「シヴィル、このゼダは隣国の、レイダ女王陛下の弟君、ゼルヴィダ殿下だ」
「えっと、いきなりそれ言われても…。そもそも、なんでそうなのか、そこんとこを説明してくださいよ…」
ユアク団長はみんなを座らせ、セリカがいなくなった時の痕跡を追ったこと、ラエンとダーシと一緒に隣国諸国を調べたこと、ある国でレイダ女王陛下に会いセリカのことについて話したことなどを説明した。
「ゼルヴィダ殿下は、魔獣が封印された本のありかを突きとめるために、密偵のひとりとして我が国の王宮に入りこんでいたんだ」
ゼダであるゼルヴィダも口を開いた。
「本に魔力を封印したとされる、司祭の一族が怪しいのは分かっていましたが、どうやって探ろうかと、ほかの密偵たちとも頭を悩ませていました。そこへセリカが召喚されて、あまり司祭には協力的に見えなかったので、接触してみました」
「セリカが家に帰った時に、隣国へ連れ去ったのも、ゼルヴィダ殿下だったんですよね」
ユアク団長の言葉に、ゼルヴィダはうなづいた。
「はい。姉と協力して転移魔法を使いました。痕跡は消したはずでしたが、突きとめられてしまったのですね」
「じゃあ、セリカがよく厨房に行ってたのって、もしかして…」
ダーシが言うと、ゼルヴィダが答えた。
「私と連絡をとるためでもありました。まあ元々、セリカは食べ物も目当てではありましたが」
「そう! セリカですよ! 団長、セリカは今、司祭宮のほうにいて、まったく会えないんですよ」
シヴィルが言った。
「まずは、セリカの確保が先決だな」
急いで王宮に帰り、手を打つことにした。
最初のコメントを投稿しよう!