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伝え石
王宮に戻り次第、ダーシたちはセリカの部屋へ行ったが、すでに司祭宮へ移動したためもぬけの殻で、特に見張りの者もいなかった。
ゼルヴィダは、王宮近辺に忍ばせている密偵たちに連絡をとった。
ユアク団長は、司祭長ローイに対して、聖女セリカのについては、第3騎士団と司祭長、双方の管轄であることを申し立てた。
「司祭宮に、騎士団が勝手に入ることはできないし…」
「まずはユアク団長の報告を待とう」
ダーシとラエンとシヴィルは、セリカの部屋でうろうろしつつ、団長を待っていた。
(セリカ。あいつ、バカなことしてなきゃいいけど…)
ダーシはドサッとソファに座りこんだ。
ふと、セリカの家で、ふたりで過ごした時のことが思い出された。
(交代で料理を作ったりしたな…。あいつ、毎日必ず昼寝してたっけ。前の世界で、もう疲れた、って言ってたのに、面倒なことに巻きこまれやがって…)
シヴィルは落ち着かない様子で、部屋の中をうろうろしている。ラエンは、何か探しているようなふうに、あちこち見てまわったり、窓をあけてベランダに出たりしている。
「ラエンのやつ、何やってんだ…」
「うわっ」
不意にラエンが声をあげた。
「なに?! 」
「どうした! 」
ダーシとシヴィルがベランダに駆け寄ると、足元をなにかがすり抜けて部屋に入ってきた。
「なーんだ、ロンじゃない…って、ロン!? セリカと一緒じゃないの? 」
部屋に入って、物陰からこちらを向いたのは、ロンだった。
「抜け出してきたのか? 」
「まあ、猫だしな…」
「ロン、セリカはどこにいるの? セリカのところへ案内してよ」
シヴィルが話しかけても、ロンはグルルとその辺のものにじゃれて遊んでいるだけだった。
「はあ、無理かあ…」
「入るぞ」
声を同時にドアが開き、ユアク団長が入ってきた。
「団長! どうでしたか? 」
団長は首をふった。
「セリカ殿、聖女の管轄は司祭庁に一任されたということで、騎士団が関わるには許可がいるそうだ」
「くそっ」
「セリカ殿に会うための段取りと合わせて、司祭宮での居場所をつきとめるぞ」
「はい! 」
「ではまず、何から始めるか…。…ところで、ちょっと、アレうるさいんだが…」
さっきからロンが、カシャンカシャーンと、何かを弾いて遊んでいる。
シヴィルがさっと立ち上がり、ロンのほうへ行った。
「ロン、ちょっとごめんねー。お話ししてるから。別ので遊んでね。それ頂戴」
シヴィルが、遊んでいたものを取り上げると、ロンは納得いかない様子でじっとシヴィルを見ていた。
「別なので遊びなよ~。なんかないかな…」
「ロンが遊んでいたのは何だったんだ? 」
「なんか石みたいなのですよ、団長。なんでこんなのが、ここにあったのかな…」
「…ちょっとそれ、見せてくれ」
シヴィルがユアク団長に手渡すと、団長はすぐに気づいた。
「これは、…伝え石だ!」
「もしかして、セリカからの?!」
ダーシが声をあげた。
「そうかもしれない。…だが、開かないな。私宛ではないのかもしれない」
伝え石のメッセージは、送る相手に向けてでないかぎり開かない。
「そうですか…。では、きっと…」
ラエンはダーシを見た。
ユアク団長も、シヴィルも同じようにダーシを見た。
「な、なんだよ」
「だって、ねえ…」
「まあ、そうだろうな」
「いいから手を出せ、ダーシ」
ユアク団長が、ダーシの手に石を握らせた。
「鍵は何だろうな」
「設定してないかも」
「しかし、メッセージが開かない」
「あいつのことだから、どうせ食べ物とか…。チョコレート! 」
「開かないね」
「キャンディ! ゲノの実! チョコケーキ! 」
「ねえ、ナッツキャラメルは? 」
「え? それは俺が好きなもので…」
「いいから、言ってみてよ」
「ナッツキャラメル」
その途端、ダーシの頭のなかに、セリカのメッセージが流れ込んできた。
「開いたみたいだね」
「ダーシ、セリカ殿は何と? 」
「ちょっと待ってください…」
ダーシは目をつぶって頭をかかえ、メッセージを整理しようとしていた。
しばらくして、ダーシは少し顔をあげて目を開けた。
「セリカは…、ゼダから魔獣についての魔法のことを聞き、王宮に戻って、その本を探していた。そして、ロンは実は、魔獣の子だと…」
「ロンが? 」
「あらー、あんた、そうだったの…」
シヴィルがロンを見ながら言った。
「司祭長が、本を持っている。本のありかは、司祭の一族に伝わる祈祷所で、もうすぐ見つかるから…と…」
「セリカ殿の居場所は? 」
「…それは、何も、言ってない。わからない…」
「そっか…」
みんながガックリした時だった。
「それなら、お役に立てそうですよ」
いつのまにかゼルヴィダが、数人の仲間とともに部屋にいた。
「だめですよ~、ユアク団長。ドアを開けっぱなしにしていては」
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