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戦い
「そうはいきません」
ローイ司祭長の声が響いた。
シュキや、司祭宮付きの騎士も大勢いて、その場を取り囲んでいた。
「もう少しなのですから、協力していただきます。これは、セリカ殿自身が望んでいることでもあるのです。そうですよね、セリカ様」
「あ…、私…」
セリカは一瞬、ダーシの腕から離れようとした。
「だめだ! セリカ! 」
「でも…、本が…」
「本なんて、どうでもいい! ローイはセリカの力を利用しようとしてるだけだ。もう、ただ利用されるのはやめるんじゃなかったのか」
ダーシは、セリカが元いた世界のことを言っているのだ。ただ働かせつづけられ、力を搾取されていくだけだった日々を。
「だって、私が協力しなくちゃ…」
「しなくちゃ、なんだ? 」
「仲間がどうなるかわからない、とでも脅されたのでしょう。ずいぶんと我々を舐めてくれますね、ローイ司祭長。セリカ殿のお荷物にしかならいとでも? 」
ユアク団長が、ずいと前へ出た。ローイ司祭長がつぶやいた。
「…ユアク、お前は前から目障りだった」
「おや、変なところで気が合いますね。私もですよ」
その途端、ふたりの魔法攻撃が激しくぶつかり合った。
「今のうちに行くぞ、セリカ」
「でも…」
しぶるセリカにゼダが言った。
「セリカ、ローイは君の力を利用して、魔獣を思い通りに操ろうとしているばかりか、魔獣が生まれることによる副産物を、自分の息がかかった商人たちに独占販売させる気だ」
「えっ」
「それに、その販売先にと考えている国々で、魔獣の軍隊を作る準備を進めている」
「そんな…。みんなが豊かになる都合のいい魔法じゃなかったの…」
「なんだそれ。そんな都合のいいものなんて、あるか」
セリカがダーシと一緒に、壁の穴から外へ出ようとした時、セリカはうしろからぐんと引っ張られる感じがした。
「あっ」
「どうした?! 」
「引っ張られる…」
体が、というより、意識が。
「ローイ司祭長に…」
「逃がしませんよ、聖女様。すでにあなたの力は、私の一部になりかけている。あなたは私の中で、私の力の一部となって生きるのです」
「じゃあ…、今までのことって…」
「あなたを私の中に、取り込むためにしていたのですよ」
「あ、それで…」
異様に疲れていたのは、生気もろとも力を奪われていたからだったんだ…。
「じゃあ、協力したら…、本のありかを…、教えてくれるっていうのは…」
「私の力の一部になることで、本のありかも分かりますよ」
「どういう…こと…? 」
「あなた方が探している本とは、私のことですよ」
「…何? 」
「なんだって? 」
その場にいた全員が、ローイ司祭長の言葉に耳を疑った。
「私の記憶の中に、刻み込まれているのです。本のなかに封印されるようにね。聖女様の力は、封印された記憶を呼び起こすためのものでもある」
「そんな…あ、あ、もう、だめ…」
セリカが頭を抱えてうずくまった。
「セリカ! 」
ダーシガ叫んだ。
「セリカ! 捨てちまえ! そんな力なんか! 」
「すてる…? 」
「そうだ! 人に認めてもらえないと言いつつ、一番、自分を認められてなかったのは、お前自身だ。だから力が必要だったんだ」
「わたしが…? 」
「だから捨てちまえ! ただのお前をお前自身で、認めてやればいい! 余計な力なんかいらないんだよ! 」
「…すてる、って、どうやって…」
「そんなん、知るか! 自分で決めちゃえよ、力を捨てるって! 」
「ちからを、すてる…? ちからなんか…」
セリカの姿が白く輝いた、と思ったら、あたり一面がその白い光で覆われ、誰も何も見えなくなった。
それが一瞬だったのか、どのくらいの時間だったのかは分からないけれど、みんなが目を開けられるようになると、そこにはセリカとローイ司祭長だけが倒れていた。
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