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騎士のお役目
「えっ、ダーシが残るの?! 」
「ここは魔獣も出るし、絶対に安全とは言えないだろ。それに今までセリカを放っておいたのはこっちの落ち度だからさ。これからはちゃんと世話するってことだよ」
「今さらいいってば。魔獣対策もしてあるし、ちゃんと結界もはってあるし」
「万が一を考えてのことだよ。私も様子を見に来るようにする」
ラエンも口をそろえて言う。
「それなら、ラエンのほうに残ってほしいな…」
セリカがぼそっと呟いた。
「なんだよ。俺じゃ不満かよ」
セリカのつぶやきを聞きつけたダーシが文句を言った。
「まあまあ。ダーシは、剣も料理も腕前はいいから、どうか使ってやってくれ。私は役目柄、君のことを報告しなきゃならないんだ」
「ふうん、そうなのね。そっか、それにダーシなら、畑仕事も料理もしてもらえるし…。そうだ、家の修繕も頼んじゃおうかな」
「おい、俺をこき使おうってのか」
「ここにいるなら、そのぶん、働いてもらわなくちゃ」
「とにかく頼んだぞ、ダーシ。じゃあ俺は一度、王宮へ戻る」
「はあい。じゃあねー、ラエン」
セリカのもとにダーシを残し、ラエンは王宮へ戻っていった。
ダーシを残したのは、魔獣を含めたもろもろの警護や、生活の支援のためでもあるが、もうひとつ、今朝のことがある。ラエンとダーシは、朝食後にこっそり話をした。
「今朝早く、裏庭のほうから魔鳥が飛び立ったようだった。そのあとセリカが、裏庭のほうから出てきた」
「セリカは魔獣と何か関係あるのか…? 」
「一緒にいたところを見たわけじゃないから、はっきりとは分からない」
「そうだな。しかし、セリカが異世界から召喚された聖女であることは、あの力からして間違いない。聖女が魔獣と通じるだろうか…」
「魔獣被害の話にしても、魔獣をかばうような言い方だったとも言える。そのあたりも含めて、俺はここに残ろうと思う」
「わかった。私も王宮に報告してから、いろいろ調べてみる。頼む」
カーテン越しに窓の外が明るくなってる。ああ、もう朝かあ。でももうちょっと、布団にくるまっていたい…。
「おい」
「おい、起きろ! 」
声にはっとしてセリカが目を覚ますと、目の前にダーシが立っていた。
「お前、いつまで寝てんだ。朝食、冷めちまったぞ」
「あ…、そっかあ…」
セリカは大きくあくびをした。
昨日からダーシがうちに、一緒にいることになったんだっけ。ラエンが帰ってから、ふたりで二階の一室を片づけて掃除して、ダーシの部屋にしたんだった。
「今、朝食って言った?! 作ってくれたの? 」
一階に下りていくとテーブルに、冷めてしまったが、具沢山のスープとナクリ粉で作ったパン、それとフルーツサラダがあった。
「うわーっ、ありがとう! 」
嬉しそうに食べ始めたセリカに、ダーシはちょっと驚いた。
「おい、それ、冷めてるだろ。温めなおそうか? 」
「まだ温かさが残ってるから大丈夫。それよりも、誰かに食事を用意してもらえるなんてー、感激だわー」
「ああ…、王宮を出てからずっとひとりで暮らしてたから…」
「それもそうだし、この世界に来る前も、働きながらずっと一人暮らししてたから」
「そうなのか? 親や兄弟は? 」
「一人っ子だし、両親は早くに亡くなったの。親戚の家にいたけど、働き始めると同時に一人暮らしを始めたから」
「ふーん…」
「ダーシは? 」
「え? 」
「家族、いるの? 」
「…まあな。俺んとこは、親もふたりとも元気だし、兄弟は俺をいれて5人。俺が一番上で、弟3人に妹が1人だ」
「えー! 5人兄弟? しかも女の子がひとりだけ? 」
「お袋が女の子欲しがってて、やっと5人目で生まれたんだよ」
「へえ~。賑やかそうだね」
「そりゃもう…。でもな、俺だって12歳になった時、見習いから騎士団に入るために、家を出たんだ」
「見習い? 」
「ああ、騎士団に入るために、始めは見習いから入るんだ。大体、10歳から15歳くらいが多いかな。まだ給料をもらえない代わりに、勉強を教えてもらいながら、騎士の仕事も覚えていく」
「へえ、偉いねえ」
「そうでもない。皆がやってることだ」
「皆がやってることだって、できない人もいるよ。皆と同じようにやれることだって、スゴイことだよ」
「…そうか? あ、それよりお前、朝は早起きして畑に行くとか言ってたくせに、朝寝坊してんじゃねーか」
「毎日とは言ってないよ。今日は寝ていたい気分だったんだもーん」
はぁ~、とダーシが深いため息がついたところに、コツコツと窓を叩く音がした。
「何? 」
窓の外には伝書鳥がいた。
「ラエンから連絡だ」
「どんな? 」
「数日後にまた、こっちに来るってさ」
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