騎士団長のお越し

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騎士団長のお越し

 数日後、知らせ通りにラエンがやってきた。ラエンのほかに、馬に乗った騎士がもうひとり、銀に光る美しい髪に、透き通るような青い瞳の男性だった。 「ユアク団長! 」 「ダーシ。ごくろうだった」  団長と呼ばれたその人は、馬を下りるとまっすぐセリカのところへやってきて、腰を落としセリカの手をとった。 「はじめまして、セリカ殿。私はダーシとラエンが属する第3騎士団の団長、ユアクと申します」 「は、はひ…、どうも…」 ユアクに手を取られ、セリカはあたふたした。 「団長、中へどうぞ」 ダーシが声をかけた。 「なによ。自分の家みたいに」 セリカが文句を言った。 「なんだよ、家のことをしてるのは俺だぞ」 「私だってしてるわよ」 「俺のほうが多い! 」 「すっかり仲良くなったみたいだね」  ふたりの様子を見ていたラエンが、面白そうに言った。 「あ、そうそう、これお土産」  馬に積んでいた荷物をつぎつぎと下ろしてきた。 「なあに? 」  開けてみると、食料はもちろん、食器やタオル、石鹸類、着替えなど、生活用品がたくさん詰まっていた。 「わー、美味しそうな紅茶もある! さすがラエン! 」 「やはりポトフは、マグカップではないほうがいいので」  荷物を持って、皆で家に入ると、さっそく持ってきてもらった紅茶を、ダーシに淹れてもらった。  ユアク団長は、あらためてセリカに挨拶をした。 「セリカ殿、こちらの都合で召喚しておきながら、今までないがしろにしていた無礼をお許しください。それに加えて、ないがしろにしていたにも関わらず、再びあなたの力を借りようと、おこがましい事をいたしましたことも…」  いきなりのご丁寧な謝罪に、セリカもちょっと呆気にとられた。 「…まあ、もういいよ。そっちにはそっちの事情もあっただろうし。王宮を出たのは私のほうだしね」 「寛大なお言葉、感謝いたします」 「それに、謝ってもらっても、今さらだしね…」  フッ、とセリカは乾い笑いをもらした。 「言うなよ、セリカ…」  ダーシが思わず呟いた。 「これは、私からの心ばかりのお詫びの品です」  ユアク団長が、小さな箱を取り出した。  開けてみると、一口サイズのチョコレートの詰め合わせだった。しかもひとつひとつデザインが違う。 「わぁ~、チョコレート。大好きぃ~」 「お気に召していただけたようで、良かったです」 「騎士団長さんも、私を王宮に連れ戻しにきたの? 」  ユアク団長は穏やかに微笑んだ。 「そうして頂ければありがたいと思います。ふたりも話したでしょうが、今は魔獣被害が深刻な状況です。民や騎士たちが大勢、怪我をしたり亡くなったりしています。あなたのお力は、癒しに特に特化したものなので、もしご協力いただけるなら…」 「それって私に、怪我人を治したりしろってことよね? 」 「治す手伝いに、ご協力いただければ、ということです」 はーっ、とセリカは大きなため息をついた。 「じゃあさ、また別の聖女さまを召喚したら? 私みたいなのにこだわってないで」 「それが、実はこの数か月にあいだに、司祭長が何度か試したのですが、いずれも失敗に終わってるのです」 「あら、そう…。それは残念。でもさ、もし私が怪我人とかを治して、治ったら、また戦うんでしょ。で、また治す、で、また怪我する。キリがないんじゃない? 」 「いえ、そうはならないでしょう」 「どうして? 」 「あなたが、ラエンとダーシにした話があるからです」 「…」 「今まで私たちには思いつかなかった考えなので、時間はかかると思いますが、その方針で政策を進めれば、魔獣との衝突は減っていく見込みがあります」 「簡単に言うのね」 「政策は簡単ではないでしょうが、言うだけは簡単です。でも、そこから始まると思いませんか? 」  ユアク団長の澄んだ青い目が、セリカの黒い瞳とぶつかりあった。 「ふぅーん…で、何から始めるつもり? 」  セリカの質問に、ユアク団長の態度がふっと和らいだ。 「まずは森や、魔獣被害がある地域の開拓をストップさせます。交通もなるべく、被害が少ない昔ながらの道を利用するように言い渡し、行商人たちには移動の頻度を減らすようにさせます」 「商人からは文句が来るんじゃない? 」 「代わりに、商人ごとに決まった地域での定住商売権のような権利をつけようかと思います。ひとつの場所で、同じ種類の商売が重ならないように、なるべく種類が多いように」 「それから? 」 「道や村を開拓するのに、適した場所を調べます。魔物とぶつからないように。そのためには、どこにどんな魔獣がいるのかを知る必要があります」 「そうね。魔獣のことを、知らなさすぎるのかもね」 「それと同時に、なるべく早く、今いる被害者たちを回復させること。新しい政策や調査のためには人手もいりますからね」 「そこで私の出番ってことか。まだ協力するとは言ってないよ」  ユアク団長はにっこりと微笑んだ。 「分かっていますよ。でも、もしご協力してくださるのであれば不自由はさせません。この家にいらっしゃると、こちらからの援助も限られてしまいますしね。ごゆっくりお考え頂ければと思います」  魅力的な微笑みを残して、ユアク団長とラエンは帰っていった。
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