召喚された聖女さま

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召喚された聖女さま

 人もまばらな荒れた土地が広がる田舎道を、ふたりの騎士が馬に乗って進んでいた。 「おい、本当にこんなところに聖女さまがいるのか? 」  赤茶色で短い髪の騎士が尋ねた。瞳はこげ茶だが、光の当たり具合でオレンジ色に光る。 「ああ。間違いない、はず…」  答えたほうは、グレーの長いストレートヘアをひとつに束ね、深い藍色の瞳をしている。ふたりはこの国の第3騎士団に属している。  今から数か月前、王都の王宮では、国を救うために異世界から聖女が召喚された。被害が増えつつあった魔獣たちの問題や、不安定になった隣国との関係に備えてのことだった。  しかし召喚からわずか一か月ほどで、聖女は王宮を出て、王都のはずれの片田舎にひとりで暮らすことになり、はや数か月が過ぎていた。 「そもそも、どうして聖女様は、王宮を出たんだ? 」 「それは、極秘事項らしく、誰も知らない」  ところどころに見える林のひとつに向かう道を行くと、次第に花などがチラホラ見え、緑が豊かになっていく。緩やかな曲った道を行くと、まばらに生えている木々のあいだに佇む家が見えた。 「あれか」 「あれだな」  古いが造りはしっかりとしていて、中級貴族の趣ある別荘といった雰囲気の家だった。近づくにつれて施された彫刻などが見えてきて、それなりに凝った造りの家であることがわかる。  ふたりの騎士は、適当な木の梢に馬を留め、玄関ドアの脇に上から下げられているベルを鳴らした。  カランカラン、と渇いた音色が響いた。が、人の気配はない。ふたりの騎士は顔を見合わせて、もう一度ベルを鳴らした。 「本当にここか? 」 「ああ。王宮が手配した物件として、ちゃんと記されている」  しばらく待ち、諦めてもう帰ろうかと思ったころ、ふと人の気配がした。 「は、いぃ~…、どちら様? 」  上から声が聞こえてきた。見上げると、女性がひとり2階のベランダからこちらを見下ろしていた。  ぼーっとした顔つきで、ぼさっとした肩までの黒髪を、無造作にひとつに結んでいる。いかにも寝起きといった感じだった。 「彼女か…? 」 「おそらく…」  華奢で清楚な聖女のイメージが、ふたりの中で音をたてて崩れた。 「それで、何のご用ですか? 私、昼寝してたんですけど」  眠そうにあくびをしながら言う。髪はぼさぼさだが、顔かたちは見目麗しいとまではいかなくても、それなりに整っている、ように見えた。  ふたりの騎士は一応、家の中に通され、ソファに座って話をしていた。ソファはいくつか置いてあったが、ひとつひとつ、色も形もてんでバラバラで、テーブルともひとつも揃っていない。 「ご用も何も…。あなたは聖女として召喚されたのですから、仕事をしていただきたいのです」 「前にも言ったけど、聖女ってやめてよ。勝手に呼びつけておいて、聖女聖女ってさ。私にはセリカって名前があるんだからね」 「これは失礼しました。セリカ様。私は、ラエンと申します」  グレーの髪の騎士が言うと、赤茶色の髪の騎士も。 「私はダーシです」 「あ、そう。それからね、そっちの都合で勝手に呼んで、さあ仕事しろなんて、嫌に決まってるでしょ」 「しかし聖女、いえ、セリカ様は、はじめは王宮で仕事をされていたではありませんか」 「あれは、みんな困ってたから…。仕方なく…」  そう。私セリカはこの異世界に呼ばれる前は、いわゆる地球の平凡な一人暮らしの会社員だった。会社の先輩にスピリチュアル好きな人がいて、色々話を聞くうちに感化されていき、気功やいろんなエネルギーワークを学んだりした。  召喚されたこの異世界では、もと居た世界とは逆に、魔法とか不可思議な現象があって当たり前と認められている。魔法使いや魔術師が職業になっていたり、魔法を使える人も普通にいたりする。  私が召喚された王宮では、ちょうどインフルエンザみたいな流行り病が蔓延していた。私は医者じゃないけど、もと居た世界の知識を駆使して、マスクを作って着けさせたり、手洗いうがい、水分塩分補給などを徹底させた。  どうやらこの世界は、魔法などで事足りることが多いせいか、現実的な対処のほうは疎かなところもあるようだ。  ついでにエネルギーワークを使って手当てをしたら、そういった力が認められているせいか、エネルギーが増幅されるようで、効き目が早かったのだ。 「聖女、いやセリカ様の魔法は、みなの希望です。どうか魔獣征伐の騎士団を支援してください」 「あれは魔法なんかじゃない。誰でもできる病気の予防だし。エネルギーワークなんてほんの少ししか使ってないんだからね」 「それです。そのほんの少しのエネル…なんとかで、いいのです。お願いします」  バンッっと、セリカはテーブルに手をついて立ち上がった。 「…王宮でも、そうだったわ。ほんの少しだけ、もう少しだけでいいから、って言って、次から次へと…」  セリカの様子に、ラエンとダーシは嫌な予感がした。 「前にいた世界でも、次から次へと仕事仕事で、やっと片づけたと思ったらまた次の仕事が来る。そんな生活が嫌で、もう辞めようと思っていたところに、この世界に召喚された」  セリカはふたりを、キッと見た。 「だから私は、自分ひとりでのんびり好きなように暮らすの! 邪魔しないでちょうだい!! 」  セリカの想いがエネルギーになって飛び散った。 「うわっ」
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