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禁断の恋に堕ちた女
禁断の恋になるなんて知らなかった。
「よかったら、プライベートでお酒飲みに行かない?無理なら別に構わないけど」
2年半前の5月のこと。当時彼氏いない歴3年だった理莉は突然の誘いに心躍らせ、乗ってしまった。宏司は理莉より7歳上のサラリーマンだ。まだ理莉が大学生の頃、入社4年目という異例の早さで係長に昇進したやり手で、常日頃から部下に対して的確に指示を出し、テキパキと仕事をこなしている。仕事の教え方も丁寧でかつ分かりやすく、入社したての新人の理莉の眼には宏司の姿がとてもたくましく、頼もしいものに映った。プライベートにおける宏司は理莉が大学生のときには行ったことのないようなお店へと何度も連れて行き、理莉が味わったことのないようなワインをその度に飲ませていた。会うことを重ねていくうちに理莉の心は完全に堕ちていた。そしてそれが落とし穴であることなど、当時の理莉は知る由もなかった。
「僕は君のことが好きだ。君のことをもっと知りたい。今日はこのホテルの最上階に部屋をとってある。ゆっくり話がしたい」
宏司からそう言われたのは6月末のことだった。スカイブルーのボタンダウンの半袖シャツから覗く鍛え上げられたその腕に抱かれることを思いながら、理莉は無言で頷いた。下界でネオンが煌めく中で初めて結ばれたその夜はとろけるような甘さに酔いしれ、こんな日がずっと続けばいいと心の底から願っていた。
だが、そんな甘い願いは脆くも打ち砕かれた。
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