カラフル

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カラフル

 青年には夢がある。  プロの画家になりたいのだ。  彼は幼い頃より絵を描き続けてきた。  風景画を得意としていた。  彼は、いくつものコンクールに作品を応募してきた。  しかし、どうしても受賞には至らない。あと一歩のところで落選する。 「いったい、俺の絵には何が足りないのだ。何が……」    青年は悩んだ。  ひたすら一人で悩んだ。  悩みながら、黙々と絵を描き続けた。  彼は孤独だった。幼い頃に家族を亡くしているし、恋人も友達もいない。  いや、数年前までは、一人だけ友達がいた。Jという男だ。  ある時、青年はJに、絵のアドバイスを求めた。するとJは答えた。「色がマズい」と。  それを聞いて、青年は激怒した。彼は、自らの色彩センスに多大な自信を抱いていたからである。  その出来事があって、二人の間には亀裂が生じた。こうして、青年は本当に独りぼっちになってしまった。 「構わないさ」  青年は呟く。 「友人なんて不要だ。俺は絵を描くことだけに集中すればいいのだから」  さて、青年が住んでいる国は現在、大きな変革の時を迎えていた。  指導者が国内の民族浄化を推し進め、気に入らない連中を次々と強制収容所へ送りこんでいた。最終的に、ガス室で処刑されるのだ。  国民は、いつ自分が処刑の対象になるのか、戦々恐々とする毎日を送っていた。  先日も、肌が灰色の「グレー」と呼ばれる人々が、強制収容の対象になることが発表された。グリーン、ピンク、パープルに続いて、これで四番目だ。    そのニュースを聞いて、青年はホッとした。 「よかった。今度の対象はグレーの連中か。俺には関係ない」  青年は、他人に関心がなかった。自分以外の誰が何人死のうが、知ったことではない。  彼の関心事はただひとつ。絵のみだ。  素晴らしい絵を描いて、俺の才能を世間に認めさせてやるんだ。    青年は一層、絵に没頭していった。
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