縁もゆかりもないキミへ【2022改訂】

11/15
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
(6) 「ええと……それはつまり……」 「おめでとうございます、お父さん」 医者は、もう一度同じ言葉を放った。単純な言葉のはずなのに、俺の頭はなかなか追い付かず、状況を理解するまでにかなりの時間を要してしまった。 「ほんと、ごめんね……」 そのとき、診察室の簡易ベットで横たわっていた明日香が、ゆっくり口を開いた。 「具合が悪い状態が続いてて……あなたに変な病気うつっちゃったら悲しいし、迷惑でしょ? それで、しばらく実家帰って、様子見してたの……」 彼女は、とても申し訳なさそうだった。返答に困っていると、黙っていた医者が、すかさず明日香に問いかけた。 「実家のご両親、いま温泉旅行に出掛けられているそうですね? 体調が優れないこと、親御さんにしっかり伝えてましたか?」 「それは、その……」 「迷惑だなんて考え、捨てましょう」 謝る明日香をよそに、医者は淡々と話し始めた。 「妊娠に体が慣れるまでは、結構な時間がかかります。全然平気な方もいらっしゃいますが、体調を大きく崩される方も少なくないです。だからしんどいときは周りに頼って、どうしてもしんどいときは迷わず受診して下さい」 それを聞いて、明日香は小さく頷いていた。 「あと、お父さん」 すると、今度は俺の方に鋭い視線が向いた。 「これからですよ?」 そう言われて、反射的に背筋が伸びた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!