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最初の手紙を貰ってから1週間。美雨は13歳の誕生日を迎えた。大きくて筆圧が強かった文字も、細くてこじんまりとした文字に変わった。鉛筆からシャーペンにシフトチェンジしたのも、要因のひとつと思われた。一人称も"美雨"から"私"へ、呼びかけも"パパ"から"お父さん"へと変化した。書かれる文章も、よりしっかりした内容に変化していて、俺は読んでいる内に何回もお辞儀してしまった。
残念だったのは、今回から手紙の中に絵が無くなったことだ。モノクロでも温かく、美雨の描く絵を見るだけで、仕事で疲れた心を癒すことができたし、翌日も頑張ろうと思うことができた。もう見ることができないのではないかと考えると、俺は頗る淋しい気持ちになった。
「って、父親か俺は……」
また、要らぬ感情移入をしてしまった。俺は、膝を叩いて自身に突っ込みを入れた。どうしても"見守ってきた"という錯覚に陥る。まるで父親の擬似体験でもしている気分だった。とはいえ、世間から見れば"覗き魔"と大差ない。俺は早々に手紙を封筒に戻そうとしたが、そのとき、手紙の下段に、小さな『P.S.』の文字を見つけた。俺は、慌てて文字を追った。
『P.S. いつか返事書いてね? ちょっと寂しい』
胸がズキンと痛んだ。美雨の言葉が頭の中に飛び込んで来た瞬間、何故か明日香の笑顔が横切ったからだ。
「明日香、淋しかったのか……?」
俺は、とてつもなく大きな不安に襲われた。"誤配達"とポストに投函した手紙の数々は、その後どうなっているのだろうかと。
──彼女の元に戻った後、無事に父親に送られているのだろうか……
"ブブブブッ!"
そのとき、いきなり机の上のスマホが震えた。
──こんな夜中に何事だろうか?
不審に思いながら通話ボタンを押すと、相手は近隣にある総合病院で、それは、明日香が先程緊急搬送されたことを伝える電話だった。
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