星降りつもる里

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「ク……クロエさん……僕をここに置いて先に進んでください……このかわいそうな屍を越えて……」 「わかった。じゃ、シモン元気でね」 私はとりあえずぐったりしているシモンに声をかけた。 「ああ……ああ、そうじゃなくてそこはシモン!あなたを置いてゆけないわ!とか言うところです」 私と面倒くさい後輩のシモンは、マドゥル王国の都プレガドからはるばる海を越え山を越えて北端のノルテの街にやってきた。 近年印刷という技術が急激に進歩したおかげで、私たちは世界の情勢や事件を詳しく知ることができるようになった。 ヴェルダ新聞社は最先端をゆく憧れの勤め先だけれど、問題は多々ある。 時間に追われず自由に動ける遊軍記者をまとめているのは上司のエルネストだが、癖が強すぎて部下が居着かないことで有名だ。 平民で女性の私がそこに潜り込めたのは、多分エルネストが変わっているおかげだけれど、本当によかったと思える日は何だか少ない。 ノルテの街の入り口には看板が掲げてあった。 『星降りつもる里へようこそ』 ノルテは世界でも有数の高所にあることを売りにした観光地だ。 だが、私たちが目指すイエラ村はもっとデシレ山の山頂に近い。 デシレ山は険しい山で空気は薄く、観光気分ではとてもたどり着けないと聞いている。 「ノルテがこんな山の上だとは思いませんでしたよ。クロエさん何で平気なんですか」 シモンは頭を抱えていて、足取りも重い。 「私はここほどじゃないけど、山の中で走り回って育ってるもの。今日はこの街の宿屋に泊まるからね」 「え?余計な宿泊って経費で落とせます?」 今はそれどころではない。 「シモン、どう見ても山酔いだよ。土地の高さに身体が慣れてないの。ここでひと晩様子を見て、動けるようなら出発する。エルネストはけちんぼだけど、この旅の日程はゆっくり組んでくれてるから大丈夫」 いつもはうるさいくらいに口数の多いシモンが、このひとつ下の村でも無口になりつつあった。 山酔いは体質的なものだから、これより先に進むのは難しいかもしれない。 「クロエさん、大丈夫!ここで動けなくなったなんて知ったら、エルネストが何と言うだろう。僕すっかり治りました!ほらこの通り、行けますよ」 根性はほめてあげたいと思うが、動けなくなってからじゃ遅い。 ぴょんぴょんと飛び跳ねてみせるシモンがぐらりと体勢を崩した。 あっと思った時には遅く、私の手は間に合わない。 モテモテだと自称するシモンが、地面と熱烈な恋人になる寸前でぴたりと止まった。 「あんまりはしゃぐと危ないよ~」 家財道具一式かと思うほどの荷物を背負った銀髪の女の子が、ほとんど指一本で長身のシモンを支えていた。 3d8fe836-188e-4093-990c-e18284b41142
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