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ミレイアはとても優秀な案内人だった。
デシレ山の見所や街の歴史に詳しく、植物や動物の生態にも精通している。
細やかな心遣いで作ってくれた食事は、見た目だけでなく必要な栄養がとれるように工夫されていて、とても美味しかった。
難所ばかりの辛い道のりだと聞いていたのに、私は楽しく旅をすることができた。
「ごめんね、ミレイア。それだけの荷物があるのに、私の荷物まで持たせてしまって」
「これが私の仕事だもん!今からがちょっと苦しくなるからね、任せといて。クロエはどこで育ったの?ここまでこの速さでついてこられるなんて、男の人でもいないよ」
「リガロ村。すっごく田舎だから知らないよね」
知らないのが当たり前だし、できれば知らなければいいと私は思った。
ところがミレイアはこともなげに答えた。
「あそこも高い山が多いよね!それでかー。でもクロエはあんまり頑張りすぎなくていいんだよ」
こんな優しい言葉をかけられることはまずないので落ち着かない。
ミレイアの声は明るくてふわりとして心地よかった。
私が生まれ育ったリガロ村は、今はもうない。
あの土地に眠っていた星石を採り尽くしてしまったからだ。
星石は、貴重で高価な魔法石の原料になるから、ほんの少しでも見つかれば人々は殺到する。
そうやって作られ、棄てられた村が国中に無数にある。
私が命じられたのは、ノルテの街とその周辺の村を紹介する記事を書くこと。
豊かさに飽きた都の大金持ちの間では、秘境の旅が流行っているからだ。
もう一つは北方のこの地域が、今でも星石を産出し続けて潤っている秘密を探ることだ。
これはヴェルダ新聞社に出資している貴族たちからの依頼だった。
星石は高山や海の底、深い森の中など、人のほとんど住めない土地でしか発見されていない。
イエラ村が、年の半分は雪に閉ざされ農作物にも乏しい北方を支えていると言っても過言ではなかった。
私は、イエラ村を私の生まれた場所のようにしたくはない。
出会ったばかりだけれど、ミレイアは本当に人に尽くす、気持ちのいい人柄だとわかる。
私が記事を紹介すれば、北方は今のままではなくなるだろう。
けれども結果を示さなくては、私はこの仕事をやめるしかない。
考えながら、黙々と足を進めるしかなかった。
道の険しさに、うんざりしかけた頃。
岩肌にしがみつくような、いくつかの建物が見えた。
「ほら、あの一番上がうちだよ。もうひと踏ん張りだよ。ほら、お茶飲んで大きく深く息をしてー」
ミレイアが簡単に指をさしたのは、ほとんど直角に切り立った白っぽい崖の上だった。
陽が当たってきらりと光る。
あまりにも遠くて、気も遠くなる。
そこからの記憶が私にはない。
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