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「お、目が覚めたか」
気がついた時には、私はミレイアの家へと担ぎ込まれていた。
「私……どうしたんだろう……!そうだ、あんなとんでもないところで気が遠くなって……そうだ!ミレイア!……えっと……あ、あなた誰?」
「ホルヘ」
ぶっきらぼうな答え方。
「あ……あ!ミレイアのご主人さん!は、初めまして!」
「よくあそこまで頑張ったな。普通とっくに音を上げてるよ」
「ほらクロエ。これ食べて!あれからホルヘが迎えに来てくれたから助かったよー。さすがにわたしじゃクロエを担いでここまで来るのは大変だものー」
できないわけではないのだ。
もはや人の域を超えている。
私は、ミレイアが持ってきてくれたあつあつのシチューを受け取りながら、器ごしにホルヘを見た。
ひょろっとして、あまり重いものを持てるようには見えない。
年齢不詳はミレイアと同じだが、何故か薄紅色のかわいい帽子と手袋をつけている。
どちらかと言えば男らしい顔立ちだけに目が離せない。
「おお、これか?ミレイアが夜なべして編んでくれたんだよ。いいだろう?」
「え、えーと」
似合っているとは言いがたかった。
「正直な子だなあ。記者だって聞いたから、もっとこう油断ならない感じかって思ってた。こんな何の見どころもない田舎に送り込まれて気の毒になあ」
「ホルヘ!クロエは真面目ですごく頑張り屋さんのいいお嬢さんなんだよ!失礼なことは言っちゃ駄目ー」
ミレイアが腰に手を当てて立ちはだかったが、その可愛らしい姿と口調で、ホルヘがこたえている様子は全くない。
「ミレイアがすごく詳しく親切に教えてくれたことだけでも『秘境!星降りつもる里の歩き方』の記事はひと通り書けます」
私の言葉に、ミレイアはにっこりして頷いた。
「でもクロエが書きたいことはそんなことじゃないよね」
少女のような笑顔だったが、瞳の奥にはずっと年月を経たような憂いがある。
私の驚きは顔に出てしまっただろうか。
「実のところ、これまでに何人も駆け出しの記者さんが取材に来たの。ほとんどはクロエと一緒に来た男の子みたいにここまでたどり着けなかったし、来られても全く動けなかったけどね」
「あんたは動けそうだな。けれども今日はゆっくり休みな。聞きたいことがあれば答えよう。答えられることならな」
ホルヘが顎をかいて面白そうに私を見た。
ミレイアとちがって、ホルヘはどうにもつかみどころがない。
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