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「すっかりご馳走になってしまった。コーキさんの言うとおり素晴らしい家庭料理だったよ」
そういや、昂輝は天武流道場門下生の先輩か。アレックスにとっては兄弟子なんだな。
「アレックス、うちの兄貴は良い先輩か?」
ちゃんとアレックスの面倒を見てくれてるとは思うけど。
「俺は特別だ、コーキさんは俺を弟と言ってくれている。タクミの兄弟なんだから自分の弟同然とな、同期で入った連中には羨ましがられているよ」
良かった、一緒に日本に来てくれるくらいだからそうだと思ったけど。
「後で来る」
「ああ」
アレックスは三階に昇って行った。
俺はさっき美音に頼んで、お茶と何か適当に菓子とか持ってきてくれるようにした。今夜はアレックスとゆっくり話をしたいからな。
ここにアルコールとかあれば父ちゃん達みたいだけど、それに慣れてない俺はきっと寝てしまう。
暫くして美音が温かいお茶やコーヒー、お湯もポット毎持ってきた。お菓子も山盛りだ。
「こんなのでいい?」
「ああ、ありがとう」
「本当に私が居ても大丈夫なの?」
「気を使うな、美音は居て良いんだ」
そう言うと美音は嬉しそうにクッションや座布団を準備してる。にゃん太も定位置にスタンバイだ。
暫くしてからアレックスが降りてきた。
「ウォルフが付いて来たがるかと思ったが寝てしまった。さっきビールを飲んでいたからな」
そうか、旅の疲れもあるからそれはしかたない。むしろ好都合。
「昂兄は一階の居間でカナ姉にピアノを弾いてもらってるわ、邪魔をしないであげよう」
「こんな夜半にピアノか?」
アレックスが不思議がる、もう22時を廻っているもんな。
「うちは防音よ、この母屋の居間とかお父ちゃんちの居間とかね。カナ姉がいつでも気兼ねなく練習出来るようにおじいちゃんとお父ちゃんがそうしたの。私達がどんなに騒いでも良いようにって意味もあるわ」
本当にずっと昔から、うちの大人達はみんな子供の事に一生懸命だ。
「そうか、それでは今度俺もこのご家族に一曲を献上させてもらおう。インディアン・フルートを持って来ている」
「本当に?わぁ楽しみにしてるわ」
美音がいきなり笑顔だ。インディアン・フルートってなんだ?フルートって言うからには楽器か?
「あのね、インディアン・フルートはネイティブアメリカン・フルートとも言ってネイティブの人達の民族楽器なの。一度だけ学校のイベントでアレクが吹いてくれたんだけど、なんか…うん、独特の世界観がある楽器よ。すごく感情豊かな」
「へぇ」
それは楽しみだ、俺は楽器とかには全然縁がないから。
「さて、夜は長いようで短い。タクミ、話をしよう。まずはお前があの家から連れ去られた時の話からだ」
「ああ」
俺は俺の事を、余りにも知らない事が多いから。
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