act.1 もう一人の兄弟

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 俺の従兄弟であるアレックス…アレクサンドロ・モルダーが日本にやって来ると聞いたのは、秋も深まり冬も始まった12月の初旬の頃。俺は大学2年生になっていた。 「このタイミングでって、なんか目的でもあるのかアレックスは」 『さぁ、でも実家のお祖父様には何か頼まれて来るそうよ』 「それ、俺には言ってないぞ」 『あら』  俺には内緒のつもりかアレックス、美音に言ったら同じだって。  前から日本に来たいと美音には言っていたから、どうせなら春の桜か秋の紅葉を見るのが良いと教えた様だが。あっちの大学の冬休みの都合で紅葉にはちょっと遅かったような気がするけど。 『最初に昂兄と関西方面を廻ってから来るのよね』  その電話で美音が言う、もう来週には来るらしい。 『あっちはいい季節だから、絵のインスピレーションが湧くと良いけどね』  その絵描きの感性は俺には分からない。  ちなみにうちの長男、昂輝もアレックスと一緒に帰ってくる。行くのを忘れていた卒業旅行とか理由をつけているけど、実際は俺と美音のお祝いのつもりかもな。  昂輝は大学を卒業した後に、本人の希望通り向こうの天武流合気道術道場の事務局に就職した。しばらくこっちには帰らないつもりなのは家族みんなが知っている。だから今回はわざわざ休みを取って帰ってくるのだろう。  兄妹大好き兄ちゃんとしては当たり前としても、既にNYのジュリアード音楽院の留学から戻り大阪の音大に通っているカナ姉に会いたいんだろうな。  そういや、あの二人ってどうなるんだ?カナ姉は大学卒業後に大学院へと進んだから、また暫く離れ離れだろうに。 「しかしアレックスもよく旅費を工面できたな、俺には日本に来るのはもう少し先になりそうだって言っていたよ」 『少し前からアレクの絵を気に入ってくれている画商さんがいるのよ。結構頑張って絵を描いてたみたいね、何枚か売れたしバイトも頑張ったって』 「そうか、絵が売れるようになったんだ。凄いなあいつも」  とりあえず結構長く滞在出来るみたいだ、関西は安宿が多いから良いとして、年末には俺の実家に来るわけだからそこは問題ない。ちゃんと父ちゃんの許可も取ってある。  NYでは美音がとても世話になったし、元々俺の従兄弟だからな。父ちゃんはしっかりともてなす気でいてくれている。  前半の関西旅は昂輝も一緒なら心配いらないか。アレックスも絵描きだから京都とか奈良とか観光地を見せてやりたい、昂輝がいい所を廻って連れて行ってくれるだろう。  俺もクリスマス前までは学校があるもんな。  そしてこの正月、実は俺と美音は成人式なんだよね。だからそれに合わせて、大阪の美音の生みの親である美夜さんとその旦那さんの藤原さんもわざわざ福島に来てくれる。  アレックスの来日やら昂輝の帰国やらも含めて、相変わらず我が家の年末年始は騒がしい。  
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