act.2 魂の回帰

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 夕方に地元に着く電車に乗り込んだ頃には、俺もアレックスも荷物で両手いっぱいだった。  結局東京タワーの他にも上野動物園やらアメ横やらにも寄って、ついでに観光客をしてきた感じ。  俺はマークさんの店で買った物以外に、真也とひかりに東京タワーとその後の上野動物園で買ったお土産。美音、カナ姉、凪紗達女子に東京銘菓、ばあちゃん母ちゃんにアメ横で買ったかまぼこ等の正月用品をいっぱいだ。我ながら変な所が所帯じみているな俺は。  アレックスもアメリカの友人や家族に色々目移りしながら土産を買っていた。俺も向こうのじいちゃんと伯父さんの家族に、アレックスに好みを聞きながら色々小物を買った。実家の方でも父ちゃん達が色々土産を準備しているから、物が被らないように小物だ。 「なぁアレックス『スワスティカ』ってなんだ?」  ようやく落ち着いた電車の中で、荷物を網棚に載せたあとアレックスに聞く。マークさんが父さんの指輪を見てそう言っていた。 「スワスティカか、説明が長くなるが」  そう言ってアレックスが教えてくれた内容はこんな感じだ。 「スワスティカ」は、ナバホ文様の「卍」の刻印の事で、元々四つの「L」が合わさった模様。それぞれ「LIFE・LIGHT・LOVE・(GOOD)LUCK」の意味が込められて、ナバホでは長年「幸運のお守り」とされていた」  1920~40年代までナバホの細工物に普通に見られた刻印だったが、しかしそれ以降では全く見られなくなった。これには世界的な背景が絡んでいるという。  第二次世界大戦以降、ナチスドイツが「スワスティカ卍」と酷似のハーケンクロイツ(逆卍)を使用したことにより、「卍」はナチのシンボルとしてのイメージが世界中で広まってしまったのだ。  これによりナバホの世界でも「卍」を使用してはいけないこととなってしまった。だから今も一般に流通しているこのマークが入る銀細工等は、1940年代以前の作品という事になる。 「要するに本当の『スワスティカ』はビンテージ物なんだ。今は当時の本物を滅多に見る事は出来ない。たまに若い作家が使用する事があるくらいだ。エルス叔父さんがわざわざタクミの名前を彫って、大事にしていたその指輪の側面にある刻印の事だ。タクミの幸せを永遠に祈っている証だな」 「スワスティカ」は、そうゆう意味か。確かにこの指輪にはその刻印と「サンバースト」という文様が描かれている。  アレックスによるとサンバーストは太陽の光が放射上に線が伸びているのが特徴の模様。太陽はナバホ族にとって強い力と癒しの象徴だそうだ。  俺とエルス父さん共通のシンボルだ。 「ナバホの文様は全部に意味があるからな、知っていくのも面白いぞ」 「そうだな、ちょっとずつ勉強していくよ」  自分の父親の文化だから色々知っていこう。   「ココペリの意味も分かるか?」  マークさんの店の名前の。なんかレシートに不思議なイラストがある。 「ネイティブ・アメリカンの伝説にある精霊だ。笛で美しい音楽を奏でて人々の心と身体を癒やす存在と言われてる。豊饒の精霊とも言われていて、ホピ族の伝承では神の一柱にも数えられる。新しい土地に導いてくれる神様って伝承もある」  なんか不思議なモチーフだ、笛を持った半虫半人のような。でもなんだか妙に愛嬌がある。 「そのモチーフの持ってる笛がインディアン・フルートだ、帰ったら聴かせてやるよ」  そういえば美音が言ってたっけ。よし、楽しみにしていよう。  電車の中でも色々話して、二時間余りがあっという間に過ぎた。 c911465c-2ac8-4d60-9bc7-0a0dfa480dc6 3c075e99-1c22-462f-bcda-8732bcacbf0f 一般的なココペリステッカー。
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