act.2 魂の回帰

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 とりあえず、書斎にあるというそれを二人で見せてもらった。  大きさは俺の感覚で言うと中身が畳二畳分以上。その為の梱包はかなりデカい。そしてそこに一緒に並んでるのはなにかの像のような。これも相当デカい。我が家の玄関ドアの高さ位。 「フランスからだから相当運搬費も掛かっただろう。まぁ相手は金持ちだから気にはならんが」  父ちゃん、フランスフランス言うのをちょっと控えて欲しいんだけど。 「カイさん」  ほらアレックスが険しい顔だ。 「これを送ってきた人物は、ひょっとして…」 「ああ、拓海の実の母親だ。幼い拓海をど田舎の山の中に置き去りにしたという」  うちの父ちゃんもその言い方。 「そうですか、後でどこのどいつか教えて下さい」  あ〜〜〜 「アレックス、気持ちは分かるが俺がそいつに何もしていないと思うか?」  やってると思う、しかも相当。前にこの話を聞いた時に、やけにあっさりだったから変だとは思ったけど。 「当時のそいつのヤサだったNYにわざわざカチ込んで、最初は俺の言うことをまるっきり信じなかったそいつに、拓海が育児放棄の虐待を受けていた動かぬ証拠の数々を突き付けて、泣きながら拓海の写真に謝らせた。相手の脳みそお花畑女は勝手に土下座までしていたけどな」  父ちゃん、未だにしっかり怒ってるじゃん。カチコミって英語でどう言うんだろうか。 「そして当時俺が引き取った拓海を、今度は自分が引き取りたいとか寝言コキやがったんだ。だから俺は自分は日本の弁護士だ、お前が日本の刑務所で臭いメシをたっぷり喰らう度胸があるなら話を聞いてやると言ったんだ」  間違いなくやらかしてる〜さすが俺様弁護士。 「そしたら今度はいきなり、金なら幾らでも出すからとっとと帰れと札束の山を出して来やがったのがそいつのダンナだ。お花畑女からどんな話を聞いたか知らんが、そいつんちの豪邸ガードマンがいきなり俺に襲いかかってきた。もちろん全部ぶっ飛ばしてきたさ。たかだか20人程度なんで全然威張れないが、どうせ向こうが先に手を出してきたから正当防衛だ」  父ちゃんが国際問題に発展しそうな事をしっかりやって来ている。  俺に母親の事を教えてくれた時にはあんなにさらっと言ってたのに。言い方と言葉の端々に、今でも絶対にその母親を許していない様子がありありと見える。 「カチコむ?コキやがる?お花畑女?」  これはアレックスには通訳が必要だな。きっと半分以上通じてないだろう。ただ、父ちゃんの荒ぶっているこの尋常じゃない『圧』は通じているみたいだけど。 「どうしても拓海を引き取りたいなら、拓海と同じ山の中に着のみ着のまま放り出してやるから数日でもひとりで生き抜いてみろってな。それをやる気もないのに拓海を引き取るとか口が裂けても言うなってそれだけは言ってきた、この脳みそお花畑女がと。拓海をボケジジイに押し付けてから一度も自分の目で安否確認をしなかったあの女はジジイと同罪だ」  父ちゃん、この徹底ぶりはやっぱり俺と親子だ。しかも本人にお花畑女宣言…  そういや高校の文化祭の時にも結構容赦の無いことを言ってたもんな。自分たち夫婦の他に拓海の親を名乗るフザけた奴らがいたら、絶対にぶっ潰すとかなんとか。これのことか。 「あの女にお前は拓海を一度殺したんだから、一生後悔して過ごせとも言った。アメリカには徴兵制があるから拓海に危険が及ぶとの思いつきで拓海を救ったつもりだったお前は、実際には拓海を殺したのと同じだ。お前はただの子殺しだと断言もしておいた」  とうとうあの女扱いも出た。相変わらず言葉で人にトドメを刺してる。父ちゃん、さすが。 「拓海が生きていたのはこの子の持っていた護りの強さと生き運だ。それは間違っても拓海を親子で殺そうとしたあんた達の血じゃないとな、一生トラウマ抱えて生きればいいんだ。俺は虐待親に人権は認めない」  一生後悔して過ごす人生…人にもよるだろうが、それは結構キツイかも。そいつが後悔してくれるかどうかは期待しないけど。なんせお花畑だ。 「アレックス、お前にも決して許せない相手なのは分かる。その気持ちは忘れなくてもいい。だが相手はそれなりの(むく)いは受けた、あの女は一生この拓海の親を名乗ることは出来ないんだ。俺が絶対に許さない」  有言実行の男…父ちゃんは改めて俺達を見た。 「拓海は今、こうして生きてお前の前にいる。この俺の大事な息子、出雲拓海としてな。大変な廻り道をしてアレックスもアレックスの家族も沢山悲しませたが、俺はこれをエルスの大いなる遺志と受け止めたい。今の拓海はお前たちの家族と俺の家族が居てこそ存在する素晴らしい生命だ」  すごい言われ方をしてるけど、それに恥じないような生き方をしたいと俺はいつも思っている。  普通でいい。  でも人としてこの大地に生きて、自然や他の生き物、生命を大事にする、そんな当たり前で優しい人間になりたいだけだ。  自分にネイティブアメリカン、ナバホ族の血が流れているのだと知ってからは余計に。 「はい…カイさん」  アレックスがようやく頷いてくれた。 「全ては巡り合わせ…そのお陰で自分もカイさんと出逢えた訳ですね」 「ああ、そうだ」  全ては繋がっているのだ。 「必要な出逢いは、時が来ればきっと巡って来るんだよ」  時の神様は誰の上にでもいる。
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