act.3 ギフト

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 そういえば、もう一つの梱包のことを父ちゃんに聞いたけど。それは俺が結婚する時用だそうだが。 「あれな、梱包を解かないほうがいいと思う。向こうもそう言ってるし、どうしても見たければ美術年鑑に載っている」  意図が分からん。 「こっちはお花畑女の作品である彫像だ。俺は要らんと言ったがこれは必ず金に替えられる作品だから、エルスから拓海への結婚の祝金にしてくれとの伝言付きだ。一応有名な前衛芸術家だから、その為に本人の署名と保証書も付いた鑑定書もついている。現在の時価で500万」 「売る」  即答。  思わぬ農業共同体の出資金ゲット、しっかりもらって売る。 「一応、エルスと結婚する前に彼が唯一出来を褒めてくれた彫像らしい。海外のデカい美術の賞も取っている」 「中身見た方がいい?」  イソラ・カガミって、父ちゃんに話を聞いてから一度だけ美術名鑑で作品を見たけど、正直訳が分からなかった。  ガーゴイルに半分だけ変形した天使とかサタンの転生とか、キリスト教関係者に石ぶつけられそうな作品ばっかり。そりゃ、クリスチャンだったエルス父さんは褒めないわ。 「俺は年鑑で見たけど真也とひかりには絶対見せたくない、夜泣きされる」  そういう作品ね。やっぱり怨念が篭っていそうだから梱包したままでいいよね。 「手放しやすい作品だとメモがあった、自分の知名度がある内に売ってくれとさ」 「どういう人だ」  やっぱり変わってるわ。 「父ちゃん、売れる?」 「俺は美術品には疎い、その時は初音に相談する」  画家の初音おじさんなら付き合いのある美術商もいるのかな。 「どうせそう遠くない未来だ」  アレックス? 「俺達が遊んだエルス叔父さんが作ったおもちゃを覚えてるか?木製の積み木や車や色々」 「ああ、写真に写っていたあれか」  アレックスと泣いて取り合っていたあのおもちゃ。 「あれは我が家に大事に取ってあるんだ。俺が日本に来るちょっと前に、爺様がうちの親父にそれの手入れを頼んでいた。全部無垢の木だったから再研摩だな」 「なんで?」 「嫁になる子がいるなら、すぐに子供が出来るだろうってさ。爺様は元首長でシャーマンだ、予言は外れない。子供が出来たらすぐに知らせろよ、向こうから送るから」  気が早い。そりゃ、一応大学を出てからだろうな。  でもそんな事が向こうのじいちゃんの張り合いみたいな物になってくれたら嬉しいけど。ひ孫の顔を見るまでは死ねないとか。 「それは良い、お祖父様が元気になるかも知れんな。拓海、頑張れ」  学生結婚を推してくるよな〜父ちゃんは。いくら自分がそうだったからって。  ますます父ちゃん達への負債が増えるわ。 「それは楽しみだねぇ、ひ孫の面倒を見られるなんて。私ももっと長生きしないとね」  こっちのじいちゃんまで。確かに遠距離恋愛の昂輝達よりも俺のほうが可能性は高いけど。 「まぁ、それも時の神様次第だよ」  必要な出逢いは、きっと来るのだから。
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