act.1 もう一人の兄弟

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 今日からうちの大学も冬休みだ。  相変わらず帰省は田代先輩と一緒。先輩の車で帰るから、高速道路代は折半でいつも俺が運転手だ。東京でも何かと田代先輩と動く事が多いし、大分運転にも慣れて来た。 「拓海の従兄弟か、どんな感じのヤツだ?」 「俺はそんなに似てると思って無いけど、美音は雰囲気が似てるって言いますね」  なんせあっちはジョニー・デップだ。母親に白人の血が混じっているから白人寄りの部分がある。  ただ、ネイティブアメリカンは元々日本人とは系統的に遠〜い親戚のようなもんだ。ナバホ族の居留地に行くと、どう見たって日本人みたいなのがいっぱいいるらしい。  最近は俺も長めの髪だから余計に似ているかも。北曰く、髪が長いとほぼエルス父さんだという。  東京に出てからはいちいち散髪に行くのが面倒くさくて、無精していたらそうなった。そのうち莉緒菜おばさんにバッサリ切ってもらわないと。 「そう言えばこの前のコンパでお前を学校で見たって女子からお前の事を聞かれたけど」  あ?またかよ、最近暇人が多いな。 「あいつは嫁がいるから無理って言っておいた。左手の指輪が見えなかったのかって」 「あざす」  助かります。美音の作ってくれたシルバーリングがいい仕事してるな。 「結構ショックを受けてたけどな、ファッションだと思ってたってさ。どうしてああいう女って自分に都合が良いように物を考えるのかねぇ」 「さぁ」  俺は美音以外の女は理解できなくても良いから別になんとも。 「けど先輩、最近良くコンパとか合コンとか行きますね?」  そういうのは好きでは無い人だったのに。 「宣伝だ、農業企業体のクラウドファンディングを立ち上げてからはなるべく人に会うようにしている。さすがに出会い目的だけのには行かんけどな」 「なるほど」  田代先輩は卒業後の農業企業体始動に向けて、今からクラウドファンディングや口コミなどで出資者を募っている。目標金額はまずは500万円。  その他、自分達で持ち出しの分は当然ある。それは皆で働きながら貯めたり親に借金したりだ。  俺もとりあえず100万の持ち出し。こっちでバイトをしてなんとか貯めてるまっ最中。 「まぁ下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる方式だ、たまにはマトモに話を聞いてくれるヤツもいるし」 「はい」  先輩は今年度卒業する。卒業したら自分の家の土地に企業体の基盤になる果樹温室と酪農の施設を立ち上げる予定だ。  果樹の担当は同じ南農高校OBの中島亮さんと酪農は中崎先輩だ。最初は二人共会社員兼業で小規模にスタートする。  ただ、亮さんは公務員だからバイトは禁止なので、完全無償のいわばボランティア。自分ではクラブ部活動だって言い張っている。 「拓海が卒業する頃には結構規模のデカい水耕栽培の施設も作る。その顧客を獲得するルートも開拓せんとな」  今の所地元のスーパーとか無農薬野菜に関心のある飲食店がターゲットだそうだが。自分たちでも企業体の商品を使った物で色々展開していきたいという。 「俺は早くハゲるかも知れん( ̄▽ ̄;)」  真面目な顔で先輩が言う。それはあまり見たくないな。  車は程なく福島に入った。  ちょうど日が暮れ始めた所だ。これなら暗くなる前には実家に着ける。
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