act.1 もう一人の兄弟

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 いつもの坂を登りつめた所にある我が家だ。父ちゃん宅の駐車場に車を停めると、中からひかりを連れた美音が出て来てくれた。 「たーにぃ、おかえりなさちゃい!」  俺の膝にパフっと、相変わらずニコニコの末っ子だ。久しぶりなのに人見知りをしないその姿が可愛い。 「ただいま、ひかり」  よいしょと抱き上げる、またちょっと大きくなったな。 「お帰りなさい拓海」  美音が笑いながら田代先輩から俺の荷物を受け取っている。 「じゃあまたな拓海、あとで連絡するわ」 「はい、お気をつけて」  三人で田代先輩を見送った。 「昂輝とアレックスは?カナ姉も一緒に来るんだよな」  玄関に入りながら美音に聞く。 「そろそろ駅に着くわよ、今おじいちゃんと真也が迎えに行ってるわ」  そっちも順調な行程だったようだな。  ばあちゃんちの居間に入ると、台所でばあちゃんが忙しそうに動き回っている姿が見えた。 「あら、拓海お帰りなさい」 「ただいま、ばあちゃん」 「お風呂は湧いてるわよ、お腹は空いてない?」 「うん、晩メシまで大丈夫。父ちゃん達に挨拶してから風呂に行くわ」  俺の部屋は相変わらずばあちゃんちの二階だ。美音が俺のリュックを持って行ってくれる。  今日はアレックスの歓迎会もかねての晩餐だろうから、きっと晩メシは期待出来る。世間的にはクリスマス・イブだし。  抱っこしたままだったひかりを降ろした、ひかりはスタタタと父ちゃん宅に続く通路を駆けて行く。サンルームになっている通路へのドアは、最近はいつも開け放しだという。 「たーにぃ、ぴーちゃんのいちご見て!今日ね、ナギおねえちゃんがケーキにしてくれるの!」  すっかり温室になったサンルームに去年より沢山のいちごプランターが並んでいる。真也とひかりの自慢のいちごだ。  …洗濯物、どこに干しているんだろうか?  とりあえず父ちゃん宅の居間に行くと、直結のキッチンの所に母ちゃんと凪紗がいた。 「あ、拓兄お帰り」  こっちの台所で母ちゃんを手伝っていたのは凪紗だ。今年、中学に進んだ凪紗はいきなり身長が伸びてとっくに美音を追い越した。もう165cmの母ちゃんにも届きそうだ、そしてまだまだ成長期。  でも姉妹の仲の良さは変わらず、相変わらず凪紗は姉ちゃん達もひかりも大好きだ。  ただ、凪紗だけは明らかに顔の造りが派手なんだよな。莉緒菜おばさんが凪紗はきっとすごい美人になるって言っている。 「ね〜拓兄ぃお土産〜?」  で、相変わらず中身はしっかり大阪人の凪紗。 「しょっちゅう帰って来てるのに土産の請求すんなって。美音に東京ばな奈とひよこ預けた」 「わ〜い、ありがとう〜!」  うちの女子達の好物だ、ホントに家に帰った気がするわ。  そういえば凪紗は最近良く勉強をするようになったと美音が言ってたな。以前は暇があるとミシンばかり弄っていたのに。  将来成りたいものが服飾デザイナーではなく、何か別の物になったらしい。  なんでも良いから凪紗の望む自分に成れると良いな、頑張れ凪紗。  そのまま父ちゃんの書斎に行く。今日はもう帰っているはずだ。 「父ちゃん、俺」  ドアをノックしながら言う。 「おう、入れ」  いつもの返事にホッとしながらドアを開ける。 「父ちゃん、ただいま」 「お帰り、大分髪が長くなったな」 「うん、あとで莉緒菜おばさんのところに行く」 「ん、いや…それ、ちょっと待て」  え?なんで? 「切るのはいつでも良いだろう、まぁ待て。ロン毛の拓海なんて滅多に見られんからな」  不精してればいつでも見られるけど。 「着替えてゆっくりしておけ、アレックス達が到着したら色々忙しいだろうから。今日はのんびりしてもらって明日は宴会だ、隆成の一家も北くんも来るからな」 「うん」  北が来るのも楽しみだ、会って話したい事がいっぱいある。  とりあえず書斎を出た。  料理の準備に忙しい母ちゃん達を横目に見て母屋に帰る。母屋の台所にはばあちゃんと美音だ。二手に分かれての夕食準備中か、きっと豪華だ。 「風呂行くね」  昂輝達が来る前に色々済ませたい。二人に告げ二階に着替えを取りに行くと、部屋ににゃん太がいる事に気がつく。眠そうなにゃん太が猫鍋ベッドから顔を上げた。 「にゃん太、ただいま」  喉元に手をやるとゴロゴロ言う。良かった、にゃん太はちゃんと元気だ。もう大分トシだから、毎日のんびり楽しく過ごしてくれればそれでいい。  にゃん太も、もう15年以上生きてくれてる。人間なら立派な高齢者だけど、もっと長生きしてもらわないとさ。  着替えを持って階下に降りた。  久しぶりの我が家の風呂でのんびりしよう。    
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