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◇
「こと……は……箏羽!」
私は朧気ながら、自分を呼ぶその声を聞いていた。
(声が……聞こえる。あれ? あまねの声だ……)
目を開けたのか薄っすらと天井が見える。
私を強く抱きしめている腕の力を感じていた。私を抱きしめているのは、隣に住んでいる幼馴染の男子高生、如月周だった。
その顔が、私が気が付いたことで咄嗟に私の顔を覗き込む。
「あぁ箏羽……大丈夫か」
それは静かな、ある種悲しみを含んでいるような言葉だった。
何が起こったのかと体を起こそうとして全身に激痛が走る。そして気怠さの中にいた。
「周……これはいったい」
ぼーっとしながら、事の発端を思い出そうとする。
私確か、その日は高校が終わってから書店に寄ったのよね……。
そして参考書を買ったの。夕飯のおかずを買って、親は海外赴任で居ない我が家に帰って……部屋に入って暗い部屋の中で電灯をつけようとして……。
「い……イヤァーッ!」
思考が現実に追いついて拒絶する。
あれは、あれは何だったの! 錯乱状態の私を宥めるように周が叫び続ける。
「もういい! もういいから! 俺がいる、大丈夫だから!」
その周の包み込んでくれている温もりに……最初パニックだった私は多々ひたすら暴れていた。それを必死に周が抱しめてくれている。
何回も耳元で「大丈夫!! 俺がいるから!」と声がする。
その言葉が脳に残り始めると、私のオーバーヒートした頭は少し落ち着いてきた。
そしてやっと自分は抱きしめられているという事実に気づく。周の温もりがこんなに心地いいなんて、今まで想像すらしなかった。
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