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序
風に吹かれて花弁の波が起き上がる。透き通る光が撒き上がる。あちこち座り込んだ子供たちはふとそちらに目をやると、溶かされるように頬を緩めた。瞳にいつぶりかの灯りが入る。彼らに至る風が、すぐにその目を乾かしてゆく。
波が過ぎ去ってゆくように、花弁が落ち、まぶたが落ち、元の光景へと戻る。向こうではようやく最後の子が風に当たった。
ここは繰り返さない。過ぎた波はそれきりやってこない。またいつか、別の波が流れてくることだろう。
平穏を取り戻した子どもたちは、積もり積もった花弁の大地に身を横たえていく。すでに足は散ってしまった子が多い。自分を作っていた花びらは、今の波に攫われたかもしれない。どこかで地面に溶けて誰かに敷かれているだろう。
静かに花が降り注ぐ。雨より軽く、雪より暖かく。
風が一度押し流したからか、妙にはきはきと降ってくるように思えた。もの珍しく見回すと、見覚えのある場所が久しぶりに空っぽになっている。
足の残った子の場所だ。今日は探しに行ってやろうと思った。
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