最後のメランコリー

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「まず、新作の件ですが。工藤先生の作品はとても現代向きではありません」 「重々承知しております……」 「多分、前の担当からも言われたと思うんですけど。イヤミスじゃサスペンスじゃないのに、どの作品もバッドエンドばかりで暗い、読んでいて後味が悪い。工藤先生が書いてる小説って恋愛ですよね? どうしてバッドエンドばかり書かれるんですか?」  うっとなると、前園さんは不思議そうな目で私を見てくる。 「……それは、私の経験を基に書いているので」 「経験?」 「小説家って想像で何でも書けそうですけど、それは才能がある人たちを指しているだけなんです。私の想像力はリアリティも無いし、未熟。なので私が経験してきたことをそのまま書いてます。勿論、フィクションなので至る所にそういう要素は入れてますけど。でも、軸は私の経験です」  前園さんはしまったという表情を浮かべると「失礼致しました」と言って、すぐに謝る。 「いえ、慣れてるので大丈夫です」  きっぱり言うと、前園さんは居心地悪そうにお茶を飲んだ。 「ジャンルを変えるのとかって難しいですか?」 「いきなりミステリー書けって言われたら難しいですけど、でも恋愛と似た系統なら」 「青春とか?」 「はい」 「ちなみに先生の青春時代は……ハッピーでしたか?」 「全く」 「……止めましょう」
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