最後のメランコリー

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 私はしばらくその手を見つめた後に手を握ると、立ち上がった。  周りはもう自分たちのことに興味を示していなかった。世界なんてそんなもんだ。注目されるのは一瞬。批評されるのも一瞬。注目や批評よりも人生の方がよっぽど長い。その中の小さな時間に病んでなんかいられないし、縋ってなんかいられない。 「前に進んで進んで、ダメだったらんです」  「ね?」と人懐っこい笑みを浮かべると、私は少し泣きそうになる。涙を堪えて、震える声で「はい……」と言うと、久しぶりに笑顔を浮かべた。 「何か、敗北感」  私がくすっと笑いながら言うと、前園さんが驚いた顔で「何でですか!?」と言った。 「私の方がよっぽど年上だし、この世界に入って長いはずなのに。まだ若い前園さんにこんなに救われて、ちょっと負けた感じ」 「意味が分からなくもなくも無いです」 「どっち?」  私は笑いながら言うと、「分からないです」と言われた。 「小説家の独特な考えなんですかねぇ」 「どうだろ。単に変なプライドのせいかも」 「プライド?」 「年下に負けたくない、みたいな。多分、そういう人いっぱいいる」 「そうなんですか?」 「うん、持論だけどね」  お茶目に言うと、「勉強になります」と前園さんが真剣な表情で言った。こんなことを勉強されても困るのだけど。私はまたくすっと笑うと、笑えている自分にどこか安心した。  大丈夫、まだ死んでない。まだ私は生きてる。いや、生き返ったって言った方が良いかもしれない。前園さんのお陰で、が私に降りつもっていく。
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