最後のメランコリー

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 趣味というのは、いざ職業にしてみると面白くなくて、嫌になってくる。やっぱり趣味は趣味のままの方が幸せなんだ、とあの日の自分に言い聞かせたい。  バイトを掛け持ちしないと生きていけないほどの売れない小説家になって数年。デビュー作はヒットして、新人賞も受賞して期待されていたけど。でも気づけば人生は奈落の底に落ちていて、這い上がれそうにない。 「新しく担当になった、前園(まえぞの)です」  何度目かの担当チェンジ。その光景に私はもう慣れていた。本来ならきっと、小説家の私の方から必要ならば担当を変えてほしいと願い出るんだろうけど。私が経験してきた今までの担当チェンジは、全て向こうからの願い出だった。「もう無理だ」「この人は売れそうにない」と見捨てられた、と表現すべきなのだろう。でも憂鬱な気持ちが降りつもって、ピークを迎えて、もう何もかもがどうでも良くなっている自分がいたから別に悲しいとかふざけんなとかそんな感情は無かった。  編集者にとって作家はよきパートナーであり、言い方は悪いとは思うが良き商品の生産者でもある。だから良い商品を生産できなくなった私は、捨てるしかない。それが普通だ。 「工藤(くどう)です、宜しくお願いします」  私が名刺を受け取ると、前園と名乗った人が目の前に座った。自分も腰を下ろして、まずは談笑して親睦を深めると、次第に本題である仕事の話を始めた。
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