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彼女を寝取られました。
※この作品は、ここに書かれている暴力行為や女性に対する乱暴な行為、過度な異性交遊を推奨する意図はございません。ご了承下さい。
やれやれ、どうしよう。
そう考えながら俺は自分の部屋のベッドで煙草に火を付けた。
俺の横には彼女が裸体を無防備に晒して寝ている。
窓の方向を向いて横向きになって寝ている彼女、あんな。
数回の行為が終わり、今は寝息に合わせて肩が僅かに動いている。
こっちに背中を向けているのが、今の彼女の気持ちを表わしてるようだ。
ベッドサイドの間接照明に柔らかく照らし出された彼女の白い背中を、そっと左手の人差し指の腹で、腰から首までゆっくりと滑らかな肌の感触を感じながら撫で上げると、「んっ」とくぐもった声をあんなは漏らしたが、そのまま寝息を立てている。
久々にあんなが夜俺の部屋に来ることになって、あれだけ純粋に楽しみにして浮かれていた4時間前の自分の気持ちが今となっては信じられない。
あんなと付き合い出して2年。
高校が一緒だったけど、その頃はクラスも部活も違い殆ど喋ったことがなかったが、東京の同じ大学にたまたま進学し、たまたま同じ講義が何コマか被っていて、偶々遅れて講義室に入った時に偶々彼女の隣が空いていた。
そんな偶々が重なった結果、時々喋るようになり、何度か一緒に学食で飯を食べ、互いの友人も交えて学外でも遊ぶようになり、そして付き合い出した。
高校の頃のあんなは、俺とは全く接点はなかったので良くは知らない。
今のあんなはパッと見、地味なタイプだ。メイクは最低限のファンデしか塗らず、アイメイクはまったくしていない。口紅も抑えたピンクで自然に見える。
ただよく見ると丸顔でやや目尻の下がった目がくりくりとよく動き、ふっくらした唇が良く無防備な笑顔を見せる。
ゆったりした服装が好みなようで、体形は普段の生活ではわかりはしないが、よく見れば胸の膨らみは結構な主張をしている。
見る者が見れば非常に女性的な魅力に溢れているのだが、あんな本人はまったくそのことに頓着しておらず、男に対して無防備ともいえる態度を取るため彼氏の俺としては気が気ではなかったが、あまり注意して束縛していると思われるのも嫌だったのでたまに夜の行為後のゆったりした時間に、髪をそっと撫でられるのが好きなあんなの髪を優しく撫でながらそれとなく伝えるのみだった。
俺がそんな懸念を伝えるたびにあんなは
「心配しすぎたよ、私そんなにモテないし。りょーちんだけだよ、私がこんな甘えるのは」
そう言って何か言いかけようとする俺の唇に指を当ててから、あんな自身の唇で塞ぐのが常だった。
俺とあんなはお互いが初めて同士だった。
高校の頃、顔も背丈も部活の成績も勉強も、何もかも普通で目立たない俺は当然彼女なぞいる筈もなく、あんなと付き合うまで18年間独り身童貞だった。
あんなは愛嬌もあり友人も多そうなタイプなので、高校の頃に経験済みだと思っていたが、意外にも俺が初めての相手。
不思議でつい過去の事を聞いたら
「高校の頃は付き合った相手が何人かいたけど、親が厳しかったからそういうことになりそうになると断っていたら、自然に消滅してばっかりだった」
と悪びれずに話してくれた。
俺とは親元を離れて一人暮らしだから良かったのか。
俺はあんなと出会ったタイミングを、信じちゃいないが神に感謝したものだ。
そんなあんなと俺だが、大学も3年になると段々と忙しくなり、お互いの時間を合わせるのが難しくなってきていた。
とはいっても夜は数日に1度はどちらかの部屋で過ごすことが多かったし、全く顔を合わせないなんてことはない。
休日を合わせてどこかに出かける機会が少なくなった程度のことだ。
ただ俺もバイトとゼミの掛け持ちで忙しく、あんなのことを気遣う余裕が無くなっていたのは否めない。
「ねえ、何か気づいたことなーい?」
2週間程前、俺の部屋で過ごしている時に、ベッドで横になってTVのバラエティ番組を眺めていた俺をあんながのぞき込みながらそう聞いてきた。
「んー、リップ替えた?」
俺はついTVから目を離さず思いつくことを答えた。
あんなはため息をついた。
「りょーちん、前はもっと私のこと見てくれてたよ。何かりょーちん変わったね。……もう今日は帰るよ」
ため息の後そう言うと、あんなは俺の部屋を出て行った。
何かそこで引き留めたら負け、みたいな変な意地が俺の中に芽生えてしまい、俺は出て行くあんなに声をかけなかった。
日付が変わった頃、気になってメッセンジャーアプリでメッセージを入れたが、既読は付かない。
いつものあんなならすぐに返してくるのに。
やっぱり怒っているのか?
通話ボタンを押す。
呼び出し音が鳴り続けるが、30秒経っても1分経っても一向に通話に出ない。
諦めて通話を切る。
何となく嫌な感じ。こんなことは初めてだ。
これまであんなはケンカになっても絶対に俺からの連絡を無視するようなことはなかった。
もしかして、自分の部屋に戻る途中で事故にでも遭ったのか?
俺は不安になり、あんなの部屋まで行ってみることにした。
あんなの住むマンションまでの道はいつもと変わった様子は無く、時々終電で帰ってきた酔っ払いがアルコールの臭いをまき散らしながら俺とすれ違うくらいだった。
あんなのマンション前に着き、あんなの部屋を見上げると電気は付いていない。
まだ戻っていないのか。
あんなも俺も車の免許は田舎出身なので取っているが、東京では車の維持費が高いので、普段の移動は徒歩か自転車、あるいは電車などの公共交通機関だ。
この時間に不在となると、誰かの車で出かけているのだろうか。
またメッセンジャーアプリでメッセージを入れる。
『今あんなの部屋の前』
『どっか行ってるの?』
『さっきはごめん』
『事故とか遭ってない?』
『もし誰かこれ見たら、状況送って』
つい立て続けにメッセージを送ってしまったが、どれにも既読は付かない。
ここでこうして立っていると不審者と間違われ通報されかねないなと思い、合鍵であんなの部屋に入り待つことにした。
あんなの部屋に入り電気を付ける。
ワンルームの中はいつもと変わらない。
水色のシーツを掛けたベッドの上にはあんなのお気に入りのミッフィーの大きなぬいぐるみ。枕元には一緒に出掛けた時に撮った写真と、コルクボードには記念日に贈ったメッセージカードがピンで留められている。
ガラステーブルの上には女性雑誌と、名刺。
名刺はこの間見つけて気に入ったと言っていた美容室の美容師のものだろう。
ああ、そうか。
今日あんなは美容室に行ったのか。
俺に髪を気にして欲しかったから、ああやって俺に聞いて来たんだな。
俺は確かに最近あんなのことをよく見ていなかったのかも知れない。
あんなに悪い事をしてしまった。
スマホで時間を見ると3時を過ぎている。
あっという間だ。
俺が送ったメッセージはどれも既読になっていない。
このまま朝までここであんなの帰りを待つべきか?
無神経にあんなを傷つけた俺が部屋にいるから戻って来ないのかも知れない。
傷心のあんなが誰かとどこかで今この時間を過ごしている。それがもし男だったらと思うと、嫉妬で胸が締め付けられ、呼吸が速くなる。
だけど男と一緒と決まった訳じゃない。
俺はそう自分に言い聞かせ、自分の部屋に帰ることにする。
スマホであんなの部屋の写真を一枚撮る。
何となくあんなの気配を感じたいと思ったからだ。
自分でもよくわからない。
帰る前にメッセージを確認する。やはり既読になっていない。
メッセージをもう一度入れる。
『部屋で待ってたけど、戻らないので帰るね』
『これ見たら連絡してね』
そして名残惜しかったが俺はあんなの部屋を出た。
あんなからの返事はなく、夜が明けた。
朝、結局一晩中眠れなかった俺は、大学をサボって眠ってしまった。
まあ、必修ではないし、毎回出席が必要な講義ではないからだが。
起きたら夕方近い。そろそろバイトに行く準備をしないといけない。スマホを確認すると、あんなから返事が来ていた。
『昨日は連絡できずにごめんね』15:49
ついさっきだ。
俺はあんなに電話した。
「もしもし、あんな? 今大丈夫?」
「りょーちん、今外だからちょっとだけなら大丈夫だよ」
あんなの背後は何かBGMと、がやがやとした雑音。どこかの商業施設だろう。
「あんな、昨日はごめん。俺、最近あんなのこと大事にしてなかったと思う」
「ん、いいよ。私も全然連絡無視しちゃったし。昨日の夜はゆかちんとこへ行って話聞いてもらってたんだ」
「丸山さんのとこ? 確か3駅隣じゃなかった?」
「うん、りょーちんの家出てすぐ連絡して、電車で行ったんだよ。ゆかちんも暇だったみたいだから良かったよ。
あ、ごめん、もう切らないと。じゃあまた私から連絡するね」
そう言って通話が切れた。
ようやくあんなと連絡が取れて、あんなの声を聞くことができて俺はホッとした。
本当はすぐにでもあんなの顔を見たい。
でも現実にはもうすぐバイトの時間だ。
俺はバイトに行くため、シャワーを浴びた。
それからあんなからはまた何気ないメッセージが入り、大学でも昼休みに学食で一緒に過ごす、またいつもの日常に戻った。俺が送ったメッセージが次の日まで読まれないことが増えたが。
そして夜はゼミの発表が近くて調べものが入るようになったと言って、互いの部屋を行き来することは無くなった。
「ゆかちんたちも来てやってるから、突然私の部屋来たりするのは止めてね」
あんなはそう言った。
その日学食でランチを一緒に食べていた丸山由香もうなずいたので、それ以上の話はできず俺もうなづくしかなかった。
それでようやく今日、あんなの都合がつくことになって、俺は浮かれていたのだ。
一緒に部屋に入ってすぐ、あんなを抱きしめてキスをする。
久しぶりのあんなを感じたくて、俺はあんなの唇と舌を貪るように吸った。
あんなを抱きしめる力もつい強くなる。
あんなも俺の背中に回した手にギュッと力が入り、応えてくれるのが嬉しい。
随分長く玄関でキスをしていたが、俺がそのまま手をあんなの腰から尻に滑らせ、膝をあんなの足の間に割り入れて、そのまま刺激しようとしたところで、あんなが唇を離した。
「りょーちん、がっつきすぎ。りょーちんらしくない。こんな所じゃ音が外に漏れちゃうし、シャワーくらい浴びてからにしようよ」
あんなはそう言って部屋の中に入った。
俺も部屋の中に入る。
「りょーちん、先シャワー浴びてきてよ。今日暑かったから臭うよ」
あんなが冷蔵庫から発泡酒を出してきて飲みながらそう言う。
いつも通り、今まで通りだ。
「わかった、じゃあ先にシャワー浴びてくる」
俺は先に裸になってシャワールームに入りシャワーを浴びた。
俺がシャワーを浴びて戻ると、あんなは既にバスタオルを巻いてシャワーの準備をしていた。
アルコールにそれほど強くないあんなは、発泡酒1本を空けただけで全身が赤くなり、艶っぽさが増している。
俺の分の発泡酒も冷蔵庫から出してきており、プルタブを開けて俺に渡す。
「それ飲んで、ゆっくり待っててね」
そう言って俺の頬に軽いキスをしてあんなはシャワールームに消えた。
俺はあんなを待っている間、途中まで読んでいた小説投稿サイトの小説の続きを読もうと思い発泡酒を飲みながら自分のスマホを開いた。
何か違和感がある。付けた覚えのない応援マークがその小説に付いている。
操作をまちがえてボタンを押してしまったかのような。
ふと気になりフォトフォルダーの写真を確認してみると、2週間前の夜撮ったあんなの部屋の写真が消えている。
これまで俺とあんなはお互いスマホを見られてもやましいことがないので、ロックはどちらも掛けていなかった。
俺のスマホもロックは掛けていなかったので、あんなが見たとしても別にかまわないし、見られて困る情報は入っていない。
だけど、本人不在だったとはいえ、あんなの部屋の写真をわざわざ消す意味……何か俺に見られて困るものがあったのだろうか?
俺はトートバッグに入っているあんなのスマホに手を伸ばした。
恋人や妻のスマホをのぞき見しても何もいい事無い、とTVで女性タレントが言っていたと思う。今まであんなのスマホをのぞき見したことは一度もなかった。
それでも俺は湧き上がる不安を解消したいと思い、あんなのスマホを手に取った。
ロックされている。
俺は予感めいたものがあり、20200715と入力した。
それは2週間前にあんなが自宅に戻らなかったあの夜の日付だ。
ロックは解けた。
フォトフォルダーを見る。
すぐにあんなの裸の自撮りが出てきた。
少なくとも彼氏である俺にはこんなものは送られて来ていない。
ただ自分で好奇心で撮っただけ? いやまさかあんながするか?
他のフォトを見て行くと更に扇情的な自撮りの他、行為中と思われるフォトが幾つも出てきた。
そこに映っているあんなは、汗まみれで、体を上気させて、快楽に身を委ねた表情をしていた。様々な体位で、苦手だと言っていた口を使った愛撫や、飲み込む場面そのもの。そして相手の男とキスしながらの自撮り。
俺はそれを見ながら、ただ胸が締め付けられた。何かが俺の精神をギューッと圧搾して体の中心の背骨当たりに押し込めるような感覚で、思考がマヒする。
しばらく機械的にフォトをただスイープする。
ショックが大きいと涙も出ないらしい。
一瞬で感情が沸点に達し、あんなに対して大声で問いただしてやろうと思ったが、何とか理性が思い止まらせる。待て、ここで大声を出しても言い逃れ、開き直り、ただ泣いてやり過ごす、いずれにしてもますますこじれるだけだ、と。
動画も多分あるのだろうが、それは音声が出るので止めておく。
相手の男が誰か、確認しなければ。
あんなのアドレスに登録されている男の名は意外に少ない。
その中で俺も顔を知ってる俺の友人などは除く。
さっきのフォトに映っていたのは俺の知らない男だった。金髪で刈り上げたサイドは染めていない、浅黒く肌を焼いた男。
残った男の名前のアドレスの、メッセージアプリの記録を一人一人見ていくが、それらしいやり取りはなかった。
バイト先の上司と思われる男だけ下心見え見えの誘いをしていたが、あんなはきっぱりと断っていた。
誰だ?
連絡を取り合わない、何て事は絶対にないはずだ。
必ず登録されているはず。
ふとアドレスをスイープしていると、気になるアドレスがあった。
美容室LAZY。
美容室なのにアイコンが車の写真、エルグランド。
俺はそのアドレスのメッセージアプリの記録を見てみた。
『今日は彼氏と会うのでメッセージはまたこっちからするね♥』
『もう今日きっぱり別れちゃえよ』
『おーい無視すんなー』
ビンゴだ。
最悪の予想は当たる。
俺のスマホのあんなの部屋のフォトを消したのは、あのフォトに美容室の名刺が写っていたからだろうか。あれだけ小さく写っている名刺を拡大しても読み取れるとは思えないが、少しでも足が付くものは消しておきたかったのか。そんなによく見ていないが、担当美容師の名前と携帯番号も入っていたのだろう。
メッセージの記録を遡って見ていく。
指が震える。体が思うように動かない。
相手の男はアツシというらしい。
アツシはあんなの担当の美容師。
あんなが新しい美容室を見つけて、今度の美容師さんはすごく丁寧に髪を整えて相談に乗ってくれると言っていたの3か月前。
メッセージのやりとりで段々と打ち解けるようになり、時々俺との仲を相談していた。
1か月前から飲みの誘いをアツシからするようになり、あんなは やんわり躱していたが、あの夜、あんなが俺の愚痴を呟いたところ、相談に乗るという口実でファミレスに呼び出されたようだ。
そこで一旦メッセージのやりとりは途絶え、2日後から再開。
ファミレスの夜、酔わされたあんなはホテルに連れ込まれ関係を持っていた。次の日も一緒に総合アミューズメント施設に行っていたが、あんなはその時限りと考えていたようだった。
俺があんなに電話した時はまだ総合アミューズメント施設にアツシと一緒にいたらしい。
再開したやりとりには、アツシが行為中のフォトを添付し、『会ってくれたら消すよ~♥』と調子に乗ったメッセージが入っていた。何枚か添付された行為中のフォトには総合アミューズメント施設多目的トイレ内での口淫も写っていた。
あんなは、それを消してもらう対価としてまたアツシと会い、そしてまた行為の写真を撮られた。アツシは毎回逢瀬の後のメッセ―ジに前回の行為写真を添付し、あんなにその感想をしつこく聞く。あんなも、初めてのプレイだった、彼氏とはやっていないなどと返し、徐々に慣れていっている。
その後、あんなはアツシの呼び出しに応じ度々会うようになり、あんな本人も段々と満更じゃなくなってきた様子がメッセージのやり取りから伺えた。
元々撮られた行為中のフォトを消してもらうために会っていたはずなのに、その度に抱かれ、益々行為中のフォトが増えて行く。あんなのフォトフォルダに入っていた自撮りもアツシの求めに応じて撮って送っていたものだった。
2人が最後に逢ったのは、昨夜。
俺が夜勤のバイト中だ。
あんなから俺が不在の日時を連絡し、アツシが迎えに行く、というやりとりで逢っていた。
二人が逢瀬から別れた後の今日の15時のメッセージのやり取り。昨夜の行為フォトが添付されており、あんなのうなじに濃くキスマークが付けられている。
アツシは行為中にアツシのことを俺よりも好き、アツシとの行為は俺とする行為よりも感じる、とあんなに言わせているようだ。
ここまでのアツシとのやりとりで、アツシはあんなに俺と別れて自分と付き合えと言ってきている。
それに対するあんなの返答はなく、『今日は彼氏と会うのでメッセージはまたこっちからするね♥』があんなの最後の返答になっている。
その後アツシからは『もう今日きっぱり別れちゃえよ』『おーい無視すんなー』というメッセージが来て既読になっている。
メッセージのやり取りの中にも動画ファイルは幾つか添付されていたが、それは見なかった。
フォトだけでも十分俺の精神を締め上げているのに、動画で生々しいあんなとアツシの行為を見てしまったら、俺は自分自身が何をするかわからない。
俺はあんなのスマホをどこかに叩きつけてぶっ壊したい衝動にかられたが、瞬間的に襲って来るその衝動をどうにかなだめ、スマホをホーム画面に戻し、再度ロックをかけ元あったトートバッグの中に戻した。
美容室LAZYのアドレスは一応俺のスマホにコピーした。
あんながゆっくりシャワーを浴びてくれていたおかげで、しっかりと確認が取れた。
あんなはもしかしたら、今朝まで抱かれていたアツシの痕跡を念入りに洗い流そうとしていたのかも知れない。
俺は温くなった発泡酒を一気に飲み干し、床に横になった。
今俺は冷静に物を考えている。
だが、それは辛うじて、だ。
俺の中で渦巻く感情は言葉に出来る類のものではない。その感情が突発的に衝動として俺の体を何かに向かって爆発的に突き動かそうとする。
それをあえて言葉にするなら破壊衝動。
俺を裏切ったあんなと、俺を小バカにし、勝ち誇ったようなメッセージを送るアツシ。
どちらも壊したい。
殺したいじゃない。壊したいだ。
殺すなんて、そんなの慈悲じゃないか。
あんながシャワールームから出てきた。
いつもなら髪を上げて留めているはずのシャワー後。
今日は下ろしている。
うなじの、アツシに付けられたキスマークを隠しているつもりなのだ。
俺は体中を駆け巡る爆発しそうな衝動を隠せていることを祈りながら、ゆっくりとした動作で冷蔵庫に行き、発泡酒を取り出す。
プルタブを開け、半分程飲み干す。残りを口に含み、あんなにくちづける。
あんなの口が開いたのがわかったので、舌で発泡酒をあんなに送り込む。
残りの発泡酒も全て口移しであんなに飲ませる。
「どうしたの、りょーちん、今日のりょーちん変だよ」
あんなの言葉に返答せず、あんなの体をお姫様抱っこに抱え上げ、ベッドに乱暴に下ろす。
「ちょっとやめて、そんな乱暴なのりょーちんらしくない」
そういうあんなの口を、俺の口で強引に塞ぐ。
俺は滾る衝動をあんなに全てぶつけた。
さっきのフォトに写っていたアツシがあんなにやっていた、やらせていた行為は全てやってやった。
何度もあんなに欲望を吐き出したが、全く俺の衝動は止まることがなかった。
俺はあんなを今日までは優しく抱いてきた。あんなの体は壊れそうだと思ったから。大事にしたかったから。
極端に言えば、キスをしながら抱き合ってイチャイチャするだけでも気持ちが落ち着いた。
だが、今は違う。
あんながアツシとの行為を受け入れられるなら、俺の衝動だって受け入れろよ!
あんなをうつぶせで寝かせ、後ろから貫きつつ両乳首を摘み、あんなの敏感な突起も摘まむ。
ベッドサイドに置いたフリスクを舐め、唾液を敏感な所に塗る。
あんなのうなじにアツシに付けられたキスマークの上から更に強く吸いつき、キスマークを上書きする。
あんなは随分と早い段階で抵抗はしなくなり、俺のなすがままにされている。
俺はあんなを自分勝手に、己の思うままに体をぶつけ壊すように抱きながら、いつのまにか自分の目から涙が流れているのに気づいた。
その涙は俺の心の中の、あんなに対する温かい何かが、水滴として俺の目から零れ落ちていっている、そんな気がした。
俺の中に残るものは冷え冷えとした凍り付く何かだ。
何度目の吐き出しだろう、俺はようやくあんなに対する破壊衝動が落ち着いて、ベッドに仰向けで横たわった。
あんなも俺から解放され、俺に背を向けて横になっている。背中が大きく上下し、荒い息を付いている。
時折鼻を啜る音が混じる。泣いているのだろう。
俺に背中を向けているあんなを見ていると、あんなに対しての罪悪感がじわりと湧いてきた。
元々、俺があんなと一緒にいることが普通になって、あんなのことをよく見てあげなかったせいだ。
あんなだけが一方的に悪かった訳じゃないんじゃないか。
あんなも突然乱暴な抱き方をした俺に幻滅しているのかも知れない。
ただ、その罪悪感以上に俺の心は冷え切ってもいた。
もうあんなと彼氏彼女には絶対に戻ることはできない。
あんなに対してのこれまで抱いていた愛情のうち、愛は消えた。
今こうしてあんなに罪悪感を感じているのは、あんなに対しての情の部分だ。
やがてあんなは寝付いたのか、穏やかな寝息を立てている。
俺は上半身を起こし、タバコに火を付けた。
あんなには口うるさく禁煙を言われていたが、もう気にせず吸える。
ベッドサイドの間接照明に柔らかく照らし出された彼女の白い背中を、そっと左手の人差し指の腹で、腰から首までゆっくりと滑らかな肌の感触を感じながら撫で上げると、「んっ」とくぐもった声をあんなは漏らしたが、そのまま寝息を立てている。
今、あんなは夢の中で誰に抱かれているのだろうか。
でも誰に抱かれていようとどうでもいいさ。そう冷え冷えと思ってしまう。
さて、どうするか。
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