case1 長田 真由の場合

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「あーあ。タイマーをつけていれば助かったのに。あっちで死んだら、もう助けてあげられないね。だってこれは、映像なんかじゃなく、本当の異世界転送なのだから」 膝に座る銀の猫を撫でながら、どこか愉快そうにそう呟くアン。 「あの国と隣国では、古来から厄災の肩代わりとして、毎年1人聖女を選び出すと、生け贄として神に捧げる風習がある、だよね?本当の聖女様、リラさん」 そんな彼女の言葉に頷き返すリラ。 彼女の隣にはニコラも立っている。 「はい。きっとあの王子は……自国からこれ以上聖女を、犠牲を出したくないから、自分が聖女を妻にすることで、彼女に自国の分も厄災を肩代わりして貰おうと考えたのでしょう」 「聖女としての役割を、私がしっかり伝えて置けば、あの女性の運命は変わったのだろうか」 そう呟き、苦悩の表情を見せるニコラ。 けれど、アンは彼に首を振る。 「伝えたところで、きっと変わらないよ。それに、もし変わってしまったら……生け贄にされるのは、君の幼馴染みのリラさんだったんだよ?それは、君も嫌なのでしょう?」 だから、金鎖亭に相談に来たんだよね?彼女の身代わりを探して欲しい、と。 妖しく瞳を光らせながら、そう語りかけるアン。 彼女の言葉にニコラは重く頷いた。 それを見届けると、アンは微笑む。 「それにほら、聖女様は生け贄にされる代わりに、3ヶ月間の栄華が約束されているじゃない?」 そう、それは惨殺される未来が決まっている聖女への僅かな餞。 生け贄にされるまでの3ヶ月間は、『何をしても許される』のだ。 だからこそ、彼女はあそこまで自由に出来たのである。 「彼女も楽しめたと思うよ。何より、彼女はこちらの世界が大嫌いだったのだから。大好きなあちらの世界で死ねて、嬉しいんじゃないかなぁ?」 無邪気にそう話すアン。 そうして彼女は猫を床に降ろすと、優しい声で告げた。 「さて、次はニコラの番だね。君の身代わりの人間を探さないと。真由みたいに、また連れてきてくれる?」 その言葉に、ニヤリと笑い頷く猫。 猫は徐に口を開いた。 「ああ、お安い御用さ。この世界には、現実に不満を持っている人間が沢山いるからな」 猫の言葉にリューゲィも頷く。 「ええ。しかも、昨今は人間の間で『異世界転生』なるものが流行っているそうですよ?」 リューゲィの台詞にアンはぱっと目を輝かせた。 「そうなんだ!じゃぁ、うちも……異世界転送屋も、当分は繁盛しそうだねぇ」 そう言って笑い合う、アンとリューゲィと猫の3人。 ーーねぇ、そこのあなた、現実に不満はありませんか?
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