27人が本棚に入れています
本棚に追加
そうして、金鎖亭に通い始めて1ヶ月程経ったある日、私は思いきってアンに不満を打ち明けることにした。
「ごめんなさい、アン。でもね、1日にたったの1度……しかも2時間だけじゃ、どうしても足りないのよ」
私の言葉に一瞬驚いた様な表情を浮かべるアン。
けれど、その表情はみるみる悲しげなものに変化していく。
(ああ……想像していた通りだわ。私は、純粋な好意でこんなに優しくしてくれた彼女を、裏切り、悲しませてしまった)
彼女の悲痛な表情に、思わず罪悪感に押し潰されそうになる私。
(なんて酷いことをしてしまったんだろう!今からでも撤回して謝ろう!)
が、私が口を開いた瞬間、アンも同時に口を開いた。
「アンっ!ごめんなさい、私ーー」
「そんなに、あの世界を気に入ってくれたんだね。だったら……悲しいけど、仕方ないかなぁ」
(えっ?)
思ってもみないアンの言葉に、思わず下げていた頭を上げ、彼女を見上げる私。
その表情は、先程までの悲しげなものとはうって変わって、まるで何かを喜ぶ様なーー柔らかな微笑みを浮かべていた。
一体、何故。
アンの笑顔の意図が分からず、暫し困惑する私。
彼女はそんな私の両手を優しく握ると、そっと耳元で囁いた。
「マユは、とっても特別な女の子だから……長くあの世界に行ける、秘密の方法を教えてあげる。でも、絶対に他の人には言わないでね」
そう告げて、アンは私の唇に自分の人差し指を軽く当てる。
「今度こそ、約束だよ?」
「わ、わかったわ」
アンの何とも言えないーー妖しくも美しい雰囲気に気圧される様に、思わず何度も首を縦にふる私。
この時の私の姿は、きっと一生懸命動き回る米搗き飛蝗の様に滑稽だっただろう。
すると、やおらアンが私の左手を握り、まるで何処かに導くかの様に軽く引いて来た。
「アン……?」
「言ったでしょう?教えてあげるよ。あの世界に、今までより、ずっと長くいられる方法を」
最初のコメントを投稿しよう!