case1 長田 真由の場合

10/31

27人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
勢いに任せ、毒という毒を吐き出した後、私は肩で息をしながら隣に座るアンを見る。 私の視線とアンの視線がぶつかったーーその瞬間、私はアンに優しく抱き締められた。 まるで、壊れ物を扱う様に、とても優しく。 咄嗟のことに、理解が全く追い付かない私。 と、アンはそんな私の頭を優しく撫で始めた。 「わかる、わかるよ。よく頑張ったね。何で、皆わかってくれないんだろう。貴女はこんなに特別なのに」 アンの言葉に、今度は私の目から涙が溢れ出る。 (ああ……ここのお店の人は分かってくれるんだわ。私が選ばれた、優秀で素晴らしい人間だって。やっと理解してくれる人達に出逢えたのね、私) 理解者に出逢えるって、なんて素晴らしいことなのかしら。 私が、そう心から感動していると、不意にアンが私の顔を覗き込んできた。 そして、とんでもない言葉を口にする。 「だからね?私達が貴女に……貴女の良さをちゃんと分かってくれる、貴女に相応しい世界をプレゼントしてあげる」 「私に相応しい世界……?!」 アンの薔薇色の唇から発せられる甘い甘い誘惑の言葉。その甘美な響きに、私の心は瞬時に搦め捕られた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加