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「さぁ、ここに座って?マユ」
アンに促されるまま、部屋の奥にあるリクライニングチェアに腰掛ける私。
「ふふ、いいこいいこ」
そんな私を優しく撫でると、アンはライティングビューローのついたアンティークなサイドデスクから、何かを取り出して来る。
「……なぁに、それ……」
先程から、より一層強くなった花の香りのせいだろうか。
ほんの少しだけ、頭がぼんやりする様だ。
(もしかして、蜘蛛に捕らわれた蝶ってこんな気持ちなのかしら?)
これから何が起こるのか、少しだけ怖い。
けれど、どこか麻痺してしまったみたいにキモチイイ。
そんな不思議な気持ちで私はアンを見つめる。
と、アンは私に微笑み返すと、その手にある物を見せてきた。
そこにあったのはーー
「ヘッドセット?」
「うん。まぁ、そんな物かな」
最近流行りのVR等を見る時に使用するヘッドマウントディスプレイによく似た物だった。
唯一の違いがあるとすれば、それが大きな水晶玉の様な物と細長い管で繋がっている、というところだろう。
「これを使えば、マユは、マユにぴったりの素敵な世界に行けるんだよ」
ヘッドセットを差し出し、にっこり微笑むアン。
(ははぁ、成る程。VRで私が喜びそうな映像を見せて、ストレス解消をさせようってことね)
だが、悪くはない。
私はゲームや映画が大好きなのだ。
「ありがとう、アン」
私はアンからヘッドセットを受け取ると、それを頭部に装着した。
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