case1 長田 真由の場合

14/31

27人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
それからの、この世界での生活はとても素晴らしいものだった。 誰もが私を崇め、敬う。 まさに、私の理想の世界そのものだった。 どんな権力者も私の言うことを聞き、命令した通りの行動をする。 この世界では、財宝も土地も何もかも、私に手に入らないものはなかった。 そう、男ですらも。 ここでは、私は神同然だったのだ。 誰もが私にひれ伏し、私の寵愛を欲しがった。 ニコラという、あの騎士団長以外は。 不思議なことに、何故かあの騎士団長だけは、思い通りにならなかったのだ。 それどころか、私が男達を王宮に招いて宴を開いていると、叱責してくるのである。 (これは、あってはいけないことよね) だって、私は聖女様なのだから。 何をしても許される、特別な存在なのだから。 だから、私はこの国で一番の魔法使いである男性を頼ることにした。 ニコラを、自分のモノにする為に。 魔法使いの説得は、とても簡単だった。 涙で潤んだ瞳で彼を見つめ、瞬きを一つ。 大きな瞳から一筋涙を溢してみせれば、男は勝手に私を心配し、何でもしてくれる。 私の涙を止める為に。 (ああ、なんてイージーモードな人生なのかしら) きっと、これが本当の、私の生きるべき人生なんだわ。 この世界は私の為にあるのよ。 「なんて素晴らしい世界なの!」 私がそうこの世界の全てに酔いしれた、次の瞬間……私の頭の中で、まるで目覚まし時計のアラームの様な機械音が鳴り響いた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加