case1 長田 真由の場合

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そうして、金鎖亭に通い始めて1ヶ月程経ったある日、私は思いきってアンに不満を打ち明けることにした。 「ごめんなさい、アン。でもね、1日にたったの1度……しかも2時間だけじゃ、どうしても足りないのよ」 私の言葉に一瞬驚いた様な表情を浮かべるアン。 けれど、その表情はみるみる悲しげなものに変化していく。 (ああ……想像していた通りだわ。私は、純粋な好意でこんなに優しくしてくれた彼女を、裏切り、悲しませてしまった) 彼女の悲痛な表情に、思わず罪悪感に押し潰されそうになる私。 (なんて酷いことをしてしまったんだろう!今からでも撤回して謝ろう!) が、私が口を開いた瞬間、アンも同時に口を開いた。 「アンっ!ごめんなさい、私ーー」 「そんなに、あの世界を気に入ってくれたんだね。だったら……悲しいけど、仕方ないかなぁ」 (えっ?) 思ってもみないアンの言葉に、思わず下げていた頭を上げ、彼女を見上げる私。 その表情は、先程までの悲しげなものとはうって変わって、まるで何かを喜ぶ様なーー柔らかな微笑みを浮かべていた。 一体、何故。 アンの笑顔の意図が分からず、暫し困惑する私。 彼女はそんな私の両手を優しく握ると、そっと耳元で囁いた。 「マユは、とっても特別な女の子だから……長くあの世界に行ける、秘密の方法を教えてあげる。でも、絶対に他の人には言わないでね」 そう告げて、アンは私の唇に自分の人差し指を軽く当てる。 「今度こそ、約束だよ?」 「わ、わかったわ」 アンの何とも言えないーー妖しくも美しい雰囲気に気圧される様に、思わず何度も首を縦にふる私。 この時の私の姿は、きっと一生懸命動き回る米搗き飛蝗の様に滑稽だっただろう。 すると、やおらアンが私の左手を握り、まるで何処かに導くかの様に軽く引いて来た。 「アン……?」 「言ったでしょう?教えてあげるよ。あの世界に、今までより、ずっと長くいられる方法を」
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