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「それなら、全部大丈夫だよ」
大丈夫?
一体どういう事なのか。
アンの言葉の意図を計りかねた私は、ほんの少しだけ眉を顰める。
(私には、全く大丈夫に思えないのだけど)
と、不意にアンが部屋の奥に向かって手招きをした。
「ちょっと早いけど、まぁ良いか。おーい、出ておいでー?リラさーん」
するとーー
「わかりました、アン様」
部屋の奥から響く、涼やかで澄んだ声。
そこに姿を現したのは、私に瓜二つの女性だった。
(成る程、身代わりって訳ね)
しかしまぁ、そっくりなんてものじゃない。
彼女はまるで、私そのものだ。
ただ1つだけ違う点を挙げるとするならば、『身に纏う空気』だろうか。
目の前の彼女は、確かに見た目は私そのままなのだが、雰囲気がかなり異なっているのである。
何と言えば良いのだろうか。
良く言えば、穏やかでお嬢様然としている。
悪く言えば、要領が悪そうだ。
(あーあ、こんなに雰囲気が違っていたら、直ぐにバレちゃうかもね。だって、私みたいに仕事が出来る空気が全然出ていないんだもの)
そんなことを考えながら、私にそっくりの女性ーーリラを見つめていると、彼女が困った様に微笑んできた。
「精一杯頑張りますので、どうか宜しくお願いしますね」
そう言って、手を差し出してくるリラ。
(私はこんな事しない)
心の中では全力でそう否定しながらも、私は表面上は微笑みを浮かべて彼女の手を取った。
「こちらこそ宜しくね、リラ」
(折角の良い機会なんだもの、バレるまでトコトン利用させて貰うわ。精々頑張って長く私に成りきってよね)
心の奥では、そうほくそ笑みながら。
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