case1 長田 真由の場合

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「それなら、全部大丈夫だよ」 大丈夫? 一体どういう事なのか。 アンの言葉の意図を計りかねた私は、ほんの少しだけ眉を顰める。 (私には、全く大丈夫に思えないのだけど) と、不意にアンが部屋の奥に向かって手招きをした。 「ちょっと早いけど、まぁ良いか。おーい、出ておいでー?リラさーん」 するとーー 「わかりました、アン様」 部屋の奥から響く、涼やかで澄んだ声。 そこに姿を現したのは、私に瓜二つの女性だった。 (成る程、身代わりって訳ね) しかしまぁ、そっくりなんてものじゃない。 彼女はまるで、私そのものだ。 ただ1つだけ違う点を挙げるとするならば、『身に纏う空気』だろうか。 目の前の彼女は、確かに見た目は私そのままなのだが、雰囲気がかなり異なっているのである。 何と言えば良いのだろうか。 良く言えば、穏やかでお嬢様然としている。 悪く言えば、要領が悪そうだ。 (あーあ、こんなに雰囲気が違っていたら、直ぐにバレちゃうかもね。だって、私みたいに仕事が出来る空気が全然出ていないんだもの) そんなことを考えながら、私にそっくりの女性ーーリラを見つめていると、彼女が困った様に微笑んできた。 「精一杯頑張りますので、どうか宜しくお願いしますね」 そう言って、手を差し出してくるリラ。 (私はこんな事しない) 心の中では全力でそう否定しながらも、私は表面上は微笑みを浮かべて彼女の手を取った。 「こちらこそ宜しくね、リラ」 (折角の良い機会なんだもの、バレるまでトコトン利用させて貰うわ。精々頑張って長く私に成りきってよね) 心の奥では、そうほくそ笑みながら。
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