case1 長田 真由の場合

25/31

27人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
「なんて良い気分なのかしら。邪魔者がいないって最高ね」 ニコラが私への忠言を止めて以降、私にとっては幸福な日々が続いていた。 なんせ、私が何かしようとする毎に忠告して来たり、果ては「聖女らしからぬ行いだから」と静止して来る厄介者がいなくなったのだ。 いや、正式には居ることは居るが、職務以外では私に極力接して来ようとしなくなったというべきか。 だが、私にとって、それは好都合だ。 ニコラが傍で監視の目を光らせなくなったお陰で、私は王宮や自室に魔法使いを呼び、堂々と儀式についての話し合いが出来る様になったのだから。 そんな、私が薔薇色の栄光を好き放題に貪っていたある日のこと。 隣国から私宛に使者がやって来た。 使者が言うには、何でも、隣国の王が是非私を王子の妻に迎えたいらしい。 (悪くない話じゃない) いよいよ、私がこの世界の主人公らしくなってきた。 私は内心ガッツポーズをしながらも、表面では突然の申し出に戸惑う聖女を装い、婚約前の王子との顔合わせに漕ぎ着ける。 そうして、薔薇園での王子との顔合わせ当日ーー。 「お会い出来るのを心より楽しみにしておりました、美しく気高き聖女様」 そう言って微笑む王子の手を取ろうとしたまさにその瞬間、前回と同じアラーム音が私の頭の中で鳴り響いた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加