case1 長田 真由の場合

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「全く、無粋なアラームね」 そう毒づきながら、カプセルの中で目を覚ます私。 (折角良いところだったのに) 中途半端に燃え上がった心をもてあまし、私は軽く舌打ちする。 と、不意にカプセルのスライドドアが開き、アンが顔を出した。 「大丈夫?ちょっとご機嫌ななめみたいだね?」 少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべながら、私を見下ろし、そう話しかけるアン。 私は、そんな彼女に「別に何でもないわ」と告げると、ゆっくりカプセルから起き上がった。 私が現実世界に引き戻されてから数時間後。 私とアンは、私の職場に来ていた。 理由は簡単。 リラの様子を見る為だ。 本当は、私としては直ぐにでもあの世界に戻りたいのだが、アン曰く『あちらの世界に戻るには、最低でも1日空けないといけない』らしい。 なので、その間の暇潰しにリラの様子を確かめに来たという訳である。 オフィスに併設されているショップ、その窓からこっそりリラの様子を窺う、私達。 リラの方はと言うと……思ったより、てきぱきと動けていた。 しかも、時折楽しそうに同僚達と談笑までしている。 (皆、あれが偽物の私だとも知らないで。いい気なものね) リラと楽しそうに笑い合う上司や同僚の姿を軽く鼻で笑う私。 しかし、そこで、ふと小さな疑問が頭を掠めた。 (あれ……?そもそもこの人達……本物の私に笑いかけてくれた事なんてあったかしら?) 私の記憶にある同僚や上司の顔は、全て困惑した顔や怒った顔ばかりだ。 (でも、私は悪くないもの) 全ては仕事が出来ない彼らが悪い。 馬鹿な彼らが悪いのだ。 たった、それだけの事。 私は、心の中でそう結論づけると、その時感じた小さな違和感と一抹の寂しさに、気付かなかったふりをした。
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