27人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
「全く、無粋なアラームね」
そう毒づきながら、カプセルの中で目を覚ます私。
(折角良いところだったのに)
中途半端に燃え上がった心をもてあまし、私は軽く舌打ちする。
と、不意にカプセルのスライドドアが開き、アンが顔を出した。
「大丈夫?ちょっとご機嫌ななめみたいだね?」
少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべながら、私を見下ろし、そう話しかけるアン。
私は、そんな彼女に「別に何でもないわ」と告げると、ゆっくりカプセルから起き上がった。
私が現実世界に引き戻されてから数時間後。
私とアンは、私の職場に来ていた。
理由は簡単。
リラの様子を見る為だ。
本当は、私としては直ぐにでもあの世界に戻りたいのだが、アン曰く『あちらの世界に戻るには、最低でも1日空けないといけない』らしい。
なので、その間の暇潰しにリラの様子を確かめに来たという訳である。
オフィスに併設されているショップ、その窓からこっそりリラの様子を窺う、私達。
リラの方はと言うと……思ったより、てきぱきと動けていた。
しかも、時折楽しそうに同僚達と談笑までしている。
(皆、あれが偽物の私だとも知らないで。いい気なものね)
リラと楽しそうに笑い合う上司や同僚の姿を軽く鼻で笑う私。
しかし、そこで、ふと小さな疑問が頭を掠めた。
(あれ……?そもそもこの人達……本物の私に笑いかけてくれた事なんてあったかしら?)
私の記憶にある同僚や上司の顔は、全て困惑した顔や怒った顔ばかりだ。
(でも、私は悪くないもの)
全ては仕事が出来ない彼らが悪い。
馬鹿な彼らが悪いのだ。
たった、それだけの事。
私は、心の中でそう結論づけると、その時感じた小さな違和感と一抹の寂しさに、気付かなかったふりをした。
最初のコメントを投稿しよう!